聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。
「閣下」
「何だ」
「今、少し笑いましたか」
アルシェはリディアを見た。
「さあ」
「笑いました」
「そうか」
「そうです」
アルシェはリディアから視線を逸らして、また布を見た。リディアも布を見た。二人の手が、まだ少し触れたままだった。
どちらも、動かなかった。
窓から差し込む光の中で、銀灰色の布が静かに波紋を揺らしていた。
リディアの胸の中で、警戒という名の糸が、一本、ほどけた気がした。