聖女の力のない令嬢の織った布に、冷徹公爵は恋をした。




「閣下」

「何だ」

「今、少し笑いましたか」


 アルシェはリディアを見た。


「さあ」

「笑いました」

「そうか」

「そうです」


 アルシェはリディアから視線を逸らして、また布を見た。リディアも布を見た。二人の手が、まだ少し触れたままだった。

 どちらも、動かなかった。

 窓から差し込む光の中で、銀灰色の布が静かに波紋を揺らしていた。

 リディアの胸の中で、警戒という名の糸が、一本、ほどけた気がした。






< 26 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop