君の隣。 〜一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、出会って10年、ずっと私だけを思い続けてくれた「親友の元彼」でした〜

本当は、ふたりで

「……それで? 君たち、付き合ったりしないの?」

後部座席から体を乗り出してきた将也の不意打ちに、車内の空気が一瞬で固まった。

「ちょっと、将也……っ! なに言って——」

私が慌てて声を裏返すと、運転席の勇斗がどこか苦笑いを交えながら、落ち着いた声で将也を制した。

「バカ、将也。変なこと聞くなよ。柚那には……彼氏がいるんだから」

「あ、そっか。いや、相変わらずお似合いだからさ」

将也はおどけたように肩をすくめたけれど、私の胸の奥はドキドキと激しく波打っていた。
彼氏がいる——。柊の存在を勇斗の前で突きつけられたようで、なんだか急に胸が苦しくなる。

「……あ、私もう降りるね! ふたりとも、今日は送ってくれてありがとう!」

動揺を隠すようにそう声をかけると、助手席のドアを開けた。冷たい冬の夜風が、火照った頬を優しく撫でる。
車を降りて手を振ると、将也が「またな〜!」と手を振り、勇斗も優しく目元を和ませてハンドルを切った。
夜の静けさの中へ去っていく車の赤いテールランプを、私はいつまでも見つめていた。

ーーーーーーーーーー

自分の部屋に戻り、コートを脱いでほっと一息ついた時のことだった。

静まり返った部屋の中で、机の上のスマホがぶるぶると小さく震えた。

画面を見ると、再び『勇斗』の名前が表示されている。

(……え、勇斗? さっき別れたばかりなのに……)

ドクン、と胸の奥が跳ねるのを押さえながら、通話ボタンをスワイプした。

「……もしもし? 勇斗、どうしたの?」

受話器越しに響いてきたのは、将也を送り届けたあとの、どこか静かで低い彼の声だった。

「今、将也送っていったよ。今日は急だったのに、出てきてくれてありがとな」

「ううん、すごく楽しかったよ! 送ってくれてありがとう」

私の言葉に、勇斗は受話器の向こうで小さく息を吐いた。
それから、少しの間。静かな沈黙が流れたあと、彼がぽつりと、探るような声で言葉を繋いだ。

「……あのさ。本当は、卒業式の日の約束通り……ニ人きりで、飲みに行きたかったんだけどさ」

「……っ」

息が、止まりそうになった。

「柚那、彼氏いるだろ? 2人きりで夜誘ったら迷惑になるかと思って……だから、将也も誘ってドライブにしたんだ」

ドクン、ドクンと、耳の奥で自分の心臓がうるさいほど大きく跳ね上がる。

勇斗は、あの日の約束を忘れてなんていなかった。
高校の卒業式の日、夕暮れの自販機の前で「二十歳になったら二人で酒飲みに行こうな」と言ってくれた、あの真っ直ぐな約束を——。

私に柊という彼氏がいることを知っているからこそ、私の立場を一番に気遣い、二人きりを避けて将也を挟んでくれたのだ。

どこまでも自分を後回しにして、私の幸せと立場を守ろうとしてくれる彼の優しさが、痛いくらいに胸に染み込んでくる。

(勇斗……っ、覚えててくれたんだ……)

込み上げてくる熱いものを必死に飲み込んでいると、受話器の向こうで勇斗が照れくさそうに笑った気配がした。

「……じゃ、遅いし早く寝ろよ。おやすみ」

「……うん。おやすみ、勇斗」

ツーツーと通話が切れ、画面が暗転する。
静まり返った暗い部屋の中で、私は熱を持ったスマホを、そっと自分の胸元に押し当てた。

耳の奥に残る彼の声と、胸の奥のざわつきが、いつまでも収まってくれなかった。
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