君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

重なる鼓動

キャンプ当日。

朝の空気に少しだけ涼しさが混じる、休日の早朝。
新太たちの家の車が、我が家まで迎えに来てくれた。

両親が新太の両親に挨拶を済ませる。

車内に乗り込むと、本当にお兄さんカップルの姿はなく、新太とご両親、そして私の四人だけ。
改めて実感が湧いてきて、ドクンと心臓が大きく鳴った。

緊張でガチガチになりながら、私はペコリと頭を下げる。

「はじめまして、新太くんと同じ高校の柚那です。……今日はよろしくお願いします!」

すると、助手席からお母さんがパッと明るい笑顔で振り返ってくれた。

「はじめまして〜! 新太からいっぱーい話は聞いてるよー! 今日は遠慮しないで、思いっきり楽しもうねー!!」

運転席のお父さんもバックミラー越しに優しく微笑んでくれて、張り詰めていた空気がふわりと解けていくのが分かった。

お昼過ぎに目的のキャンプ場に到着した。広大な自然に囲まれた綺麗な場所だ。

まずは四人で協力してテントを建てる。手際のいい新太たちの邪魔にならないよう、私も一生懸命ペグを運んでお手伝いをした。

その最中、お父さんが目尻を下げて私に話しかけてくれた。

「うち、息子二人だからさ。こうやって女の子がいてくれるの、娘ができたみたいで新鮮で凄く嬉しいよ。これからいろんなところ、一緒にでかけようね」

「あ……ありがとうございますっ!」

新太の家族の輪に優しく受け入れてもらえた気がして、胸の奥がじんわりと熱くなった。

夕食までの時間、新太と二人でサイクリングに出かけた。

ペダルを漕ぐたび、残暑の風が勢いよく体を通り抜けていく。並んで自転車を走らせていると、新太がパッと前方を指差した。

澄んだ青空に、雄大な富士山が見える。

「なぁ、柚那、ダイヤモンド富士って知ってるか?」

「ダイヤモンド富士……?」

「太陽が山頂とぴったり重なって、ダイヤモンドみたいに輝くやつ。それ、絶対に柚那と一緒に見たいって、ずっと思ってたんだよね」

新太は自転車を止め、はにかむように真っ直ぐに私を見つめた。不意打ちの言葉に、心臓がトクンと大きく跳ねる。

「……っ、楽しみだね!」

急激に顔が熱くなって、私は照れ隠しのようにそう返すのが精一杯だった。

ダイヤモンド富士が見られるのは明日の日の出の瞬間らしく、今夜は早めに寝るスケジュールが決まった。

ーーー

夜。

みんなで美味しいバーベキューを楽しみ、シャワーを済ませて就寝の時間になった。

お父さんたちの気遣いで寝る用に小さなテントをもうひとつ建ててくれていて、そこへ新太と二人きりで入ることになった。

狭いテントの中、オレンジ色のランタンの光が静かに私たちを照らす。夜のキャンプ場はひんやりと冷え込んでいた。

朝からの緊張と移動の疲れもあり、寝袋に入った途端、私は強烈な眠気に襲われた。ウトウトしかけた、その時。

「柚那、こっちおいで」

新太の少し低い声と一緒に、トントンと自分の腕を叩くジェスチャー。

閉じかけていた目がパチッと開いた。猛烈な眠気が吹き飛び、心臓が急にうるさく鳴り響き出す。

私は緊張で体を硬くしながらも、吸い寄せられるように新太の寝袋のほうへと体を寄せた。

すっとあたたかい腕が私の頭の下に差し込まれ、優しく引き寄せられる。

新太の体温といい匂いに包まれ、頭がのぼせそうになった。
けれど、胸元で規則正しい心音を聴いているうちに緊張が安心感へと変わり、再び心地いい眠気が押し寄せてくる。

「柚那、起きてる……?」

耳元で囁くような優しい声。もうまぶたが重くて声が出せない。

何も答えられないでいると、ふっと新太の気配が近づいて、唇に柔らかいものがそっと触れた。

……ちゅ、と、静かなテントの中に小さな音が響く。

「……おやすみ」

耳元でぽつりと聞こえた、新太の優しい囁き。

夢うつつだったけれど、唇に残るぬくもりとキスされた確かな感覚は、私の脳裏に鮮明に焼き付いた。

私はそのあたたかい腕の中で新太にぴったりと身を寄せながら、今度こそ静かに意識を手放した。
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