君の隣。~一番愛した人の裏切り、泥沼のモラハラ彼氏。傷だらけの私を最後に救ったのは、10年間私を忘れられずにいた「親友の元彼」でした~

残酷なほど優しい告白

勇斗とはその後も変わらず連絡を取り合い、学校が休みの日に時間が合えば、会うことも増えていた。

会うといっても、いわゆるデートのような甘い雰囲気ではない。
お互いの必要なものを買いに行ったり、観たい映画があれば誘い合って観に行ったりする。

「私たちは、ただの友達だから」
「これはデートじゃないから」

心の中で何度もそう言い訳をしては、彼との時間を手放せずにいた。
本当は自分の気持ちに気づいているくせに、「友達」という関係を都合よく盾にして、私は彼の優しさにどっぷりと甘えきっていたのだ。

一緒に出かけた、ある日の帰り道のことだった。

茜色に染まる夕暮れ時。勇斗と肩を並べて歩いていると、突然、彼がピタリと足を止めた。

「柚那」

いつもより一段低い、真剣な声。
振り返ると、勇斗がまっすぐな瞳で私を見つめていた。

「……この関係が崩れるのが嫌で、なかなか言い出せなかったんだけど」

不意に、風が止まったように感じた。
勇斗の口から紡がれる次の言葉を予感して、心臓が大きく跳ねる。

「俺、柚那のことが好きなんだ。俺と、付き合ってください」

……頭が真っ白になった。

時折見せる彼の真剣な眼差しや、不器用な優しさ。
彼の抱いている感情に、本当はどこかで気づいていたはずなのに。
私は自分の居心地の良さを守るためだけに、彼の気持ちを見て見ぬふりをして、ひたすら甘えていただけだった。
なんて自分勝手で、ずるいんだろう。

私の一番欲しかった言葉。
今すぐ彼に飛びついて、「私も好き」と言えたら、どんなに幸せだろう。

けれど――。

(だめだ……だめだよ、柚那)

私の気持ちは、ずっと前から決まっていたのだ。
どれだけ好きでも、この選択だけは変えられない。変えてはいけない。

明里の顔が、フラッシュバックする。
友達を裏切り、傷つけ、失うことの恐怖が、私の喉を強く締め付けた。

「勇斗、ありがとう。……でも、ごめんなさい」

震える声で、絞り出すように言葉を続ける。

「うまく説明できないんだけど……勇斗は明里の元カレだっていうのが、どうしても引っかかって。勇斗と明里、二人ともお互いにもう気持ちなんてないのかもしれない。……でも、それでも」

小さく息を吸い込む。

「知らないうちに、明里を傷つけてしまうんじゃないかって思うと、怖くてたまらないの」

言い終えた瞬間、なぜか、ぽろぽろと涙が出てきてしまった。

自分から振っておいて、泣くなんておかしい。
頭ではわかっているのに、勇斗の優しさを手放す痛みに耐えきれず、次から次へと涙が溢れて止まらなくなる。

「……ふっ、なんでお前が泣くんだよ」

勇斗は少し困ったように笑うと、そっと手を伸ばし、私の頬を伝う涙を長く綺麗な指先で軽く拭った。

「……柚那の言いたいこと、ちゃんと伝わったよ」
「勇斗……」
「それに柚那なら、きっとそう言うだろうなとも思ってた。……うん、ありがとな」

彼は一瞬だけ寂しそうな顔をして、でもすぐに、いつものように優しく微笑んだ。

「『このまま俺と疎遠になるのかな?』とか考えてるだろ? ……でも、柚那がいいなら、今までみたいな関係でいたいと俺は思ってるよ」

「……勇斗は、それでいいの?」
私は涙を拭いながら問い返した。
「私、ずっと勇斗の優しさに甘えてた。友達だって言い訳して、自分の居心地の良さばかり優先して……。勇斗の気持ちに薄々気づいてたのに、ずるいことばっかりして……本当にごめん。私、最低だよね」

堪えきれず、自己嫌悪の言葉が次々と口をついて出る。
すると、勇斗は少しだけ困ったように眉を下げて、私の頭をポンと叩いた。

「柚那。そんな風に自分を責めるなよ」
「でも……っ」
「俺が好きで一緒にいたんだ。お前が謝ることじゃないだろ」

彼は私の言葉を優しく遮ると、まっすぐに私の目を見て言った。
「それに、前にも話したかもしれないけど、俺も関係を崩したくないし、気まずくなりたくないんだ」

「……っ、」

これ以上言葉を紡いだら、決めていた意志が音を立てて崩れてしまいそうだった。
だから私は、溢れそうになる感情を必死に飲み込み、ただ小さく頷くのがやっとだった。

「……うん、ありがとう」

(ごめんね、勇斗。……本当に、ごめん……)

勇斗は、どうしてこれほどまでに優しいのだろう。
私がどれだけ自分を責めても、抱えているトラウマも、臆病なところも、すべてわかった上で寄り添ってくれている。

彼を傷つけてまで「付き合えない」と突っぱねたのは、ただ自分が傷つきたくないだけの、最低な強がりだった。

《どれだけ頑固なの?!》
《勇斗の気持ちはどうなるの?!》

周りの人が見たら、きっとそう思って呆れるだろう。

だけど、自分で自分の気持ちに蓋をして決めたこと。
震える手でその蓋を必死に押さえつけながら、私はどうしても自分の意志を曲げることができなかった。
――本当は誰よりも、彼の隣にいたいと願っているくせに。








「俺が好きで一緒にいたんだ。お前が謝ることじゃないだろ」切なすぎる勇斗の優しさ……!ふたりのすれ違う運命を、ぜひ【本棚登録】で見守ってください🌙
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