次の世界でも、私を探してくださいね。

8

 楽しい時間はすぐに過ぎるけれど、その楽しい記憶は消えないし、空を飛んだことはまだ沸かしたてのお湯のようで、その思い出はまだ熱い。こんな熱いままで、ひとりでうちに帰りたくはない。

 竹香は夕方になるまで歩き続けていたら、晩餐会の会場に来てしまった。
 小高い丘の上から、煌々と灯のついた建物が見えた。ここで晩餐会が催されるのだ。
 
 わたし、行きたかったなぁ。
 
 竹香は草の上に腹ばいになって、下の灯を眺めていた。
まだ飛行の興奮が続いていて、頬に朝のカイロみたいな微熱が残っていた。

 会場では、これからスピーチがあり、食事会があるのだろう。キャプテンのスピーチを聴きたかったなぁ。キャプテンはどんな顔をして、どんなことを話すのだろうか。
 わたし、そんなキャプテンを見たかったなぁ。

 晩餐会の後はダンスがあると聞いているけれど、キャプテンも、ケンケンも踊るのだろうか。
 わたし、踊ってみたかったなぁ。

 そんなことを思いながら、竹香はちょっとうとうとしていたようだ。目を覚ましたら、頬がすっかり冷たくなっていた。
 建物から、男子たちがこぞって外に出てきた。なにかとても楽しそうに笑っている。冬氷の姿が見えた時、心臓がまた鳴った。
 
 男子たちが冬氷の周りに寄ってきて、胴上げし始めた。冬氷の身体が、2回3回と宙に舞った。彼が地面に下りると、みんなが金色の封筒を渡していた。
 あれは何なのだろうか。
 
 寒くなってきたし、お腹もすいたので、竹香は暗い道を肩を落としながら歩いた。 あの会場では、今頃はみんな笑顔で、楽しくやっているのだろうなぁ。
 昼間のあの歓声の中にいた自分が、今はたったひとりで、とぼとぼと歩いている。でも、これがわたしの定位置なのだと思う。いつもそうだから。

  
 竹香は飛べないので、歩いて帰ってきたから、時間がかかった。
 でも、家に着いた時、義母も、貴星も、まだ帰ってはいなかった。台所に行って冷たくなっていた蒸かしイモを食べ、水を飲んで、ふたりが帰る前に寝てしまうことにした。

 深夜近くに帰ってきた音が聞こえたから、布団を頭からかぶった。闇の中に、騒々しい足音が響いたかと思ったら、部屋のドアが開いた。

「チーチー、チーチーってば」
 貴星の呼ぶ声は聞こえたけれど、竹香は寝たふりをしていた。
 
 ガッチャン!

 姉が何か投げたので、それが床に落ちて、音をたてた。
 貴星が去った後、そっと起き上がって拾ってみると、貸してあげた母の髪飾りだった。姉が怒っていることは確かだ。でも、布団をはがしたり、馬乗りになったりしないで帰って行ったから、それはよかった。
 
 今夜は楽しかったことだけ考えて寝よう。竹香は黄色いリボンを抱いて、右手を頬に当ててみた。冬氷と手をつないで、大空を飛んだのだ。大きな手だった。あれは、ほんとうに最高だった!
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