愛する君を消す

頷き

机を片付けた。便箋の束を引き出しに、祖母の手紙をその奥に、祖母の古いお守りをさらにその奥に、それぞれ揃えてしまった。祖母の本だけを、机の上に残した。表紙の縁に両手を添えると、布の繊維の感触が手のひらに伝わった。祖母もここに両手を添えた。透もここに両手を添えた。私もいま、ここに両手を添えている。三世代の手が、同じ布の上で重なっていた。

台所で湯を沸かし、茶を淹れた。湯のみを机に置くと、底が天板に触れる音が低く鳴った。湯気がゆっくり立ち上り、本の輪郭が薄く揺れた。位置も色褪せ方も、二か月前の机で見たそれと変わらない。透は目を開けない。祖母はもういない。誰にも言わない。

湯のみの縁に両手を添え、しばらく湯気を見ていた。輪郭は二度ほど形を変え、低く折れて消えた。指先に湯のみの温みが薄く移る。それから温みではなく、本の輪郭のほうへ目を戻した。

一度、頷いた。

それだけだ。
< 35 / 44 >

この作品をシェア

pagetop