【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
第一章:冴えなかった元彼が、王子様に変身していた。





***

 十月二十日、二十九歳の誕生日。

 婚約者の裕一から事前に伝えられていた予約の取れない高級日本料理店に足を運び、案内されるがまま個室部屋へ入ったとき、悠里は胸に期待を秘めていた。




 「(これってもう、プロポーズ……だよね?)」

 悠里と付き合っている玉木裕一とは、同じ職場の上司であり、お付き合いをはじめて二年になる悠里の婚約者でもある。

 半年前から同棲もはじめ、悠里は彼との結婚に向けて着々と準備を進めてきていた。


 そして、悠里の誕生日にこんなにも素敵な食事処を予約してくれているということは……と考えたところで、彼女の心は幸せに満ちていく。

 会社でも重要なポストで働く多忙な裕一とは、毎日すれ違いのような生活が続いていたけれど、いよいよ結婚という選択をしてくれることに、悠里は大きな喜びと、少しばかりの安堵の気持ちを持って席に座った。



 「ただいま裕一様達も到着されたようですので、もうしばらくお待ちください」

 「〝達〟?」

 上品な着物に身を包んだ女将からのその言葉に、違和感を持った瞬間だった。

 スッと開かれた襖からやってきたのは、相変わらず高価なスーツを着ている裕一と、それから見知らぬ一人の女性。

 裕一もそのとなりにいる女性も、どちらも同じように浮かない表情で目を泳がせていた。何がなんだか分からない悠里は、どうにか状況を理解しようと自ら声を挙げる。

 「裕一さん、えっと……そちらの方は?」

 「……っ」





< 1 / 13 >

この作品をシェア

pagetop