【1章だけ大賞長編用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。





 一番に給湯室を案内する真紀子は、悠里の緊張を少しでもほぐそうとする心優しい先輩で、悠里もそれを察して少しばかりホッと肩の荷を下ろした。



 「じゃあまずは各部署から届いた休暇届を、このエクセル表に入力していってもらおうかな」

 「かしこまりました」



 裕一から一方的な別れを告げられたあの日から、悠里の心は完全に崩壊した。

 食事を摂ることはおろか、会社へ行くことさえできなくなって、休職願いを出そうと思っていたけれど、当時の悠里の上司は裕一である。


 悠里の心を壊した張本人と顔を合わせることなどもっての外で、悠里は最低限の荷物だけ持って格安のビジネスホテルへ逃げていた。

 そんな状態の悠里が休職申請の許可を取るために彼と話すことなどできるはずもなく、これまで溜まりに溜まっていた有給をすべて使い果たしたのち、休職ではなく退職届を会社の人事部へ直接提出することがやっとだった。




 『ホテルなんて疲れが取れないだろう、家に帰ってきてほしい』

 『もう一度二人できちんと話し合いをしよう』

 『僕のことを殴ってくれても構わないよ。だから顔を見せてくれないか』




 悠里の誕生日の翌日から、彼女のスマホには毎日のように裕一から数々のメッセージが届いていた。

 少し前まで多忙を理由に連絡さえまともに取り合えなかったというのに、別れるとなった途端に人はここまで変わるものなのか。

 悠里はシングルサイズの固いベッドの上で、膝を抱えながら彼と共にした二年間を振り返って、それらを嘲笑うように鼻を啜って泣くことしかできなかった。





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