懲罰復讐列車(メトロ・ネメシス) ※一括掲載
第二話 武術家たちの物語(失われた決戦)
5
運行予定によって国際ターミナル駅()で停車中の復讐列車では、二人の獰猛そうな男が殺意十分に対峙している。
二人の伝説の格闘家は因縁の対決が叶わなくて絶望していたのだった。
片方は日本人のリュウゾー選手。もう片方は中国人のチュンリーロン選手。
「お前が共産党の弾圧で理不尽に殺されたのは真に遺憾だった」
「お前がコロナで亡くなったと聞いたときには正直ガッカリしたよ」
ストリートファイトのゲームのように、非現実的な暴力行為の対決が繰り広げられる。
ついに決戦の火蓋が切って落とされる。
「ファイッ!」
こういう手合いの扱いは、好きなだけ鼻血が出るまで殴り合わせておけばいいのだ。そのうち力尽き、満足もしてお開きになるだろう。ただし地下闘技場かどこか、他人の迷惑にならない場所でやってくれればそれで良いのである。
雄叫びを上げて猛然と拳を交わしながら、充実して幸せそうだ。
「がんばれー!」
どちらへともなく、無責任に黄色い野次を飛ばして手を叩く。
決戦試合に立ち会う栗毛碧眼の女車掌は二十歳過ぎくらい。
こちらのミス・ネメシスAは同じサキュバスでも、クールでカッコイイ女の色気と魅力がオーラに迸るかのようだ。父親がロシア人で白人の血が半分混ざっているせいなのか、ボディラインはグラマラスで、ふっくらとしたボインの胸のネームプレートには「サリーナ」の名札がついている。
サリーナはエアロボクシングのエクササイズや激しい調子の軽音楽を好むなど好戦的でより積極的な面がある(ロシア的粗暴性もある?)。そういった性格や好みは雰囲気や態度にもあわられるし、ファッションセンスなどにも反映し、「メタルとかやってそう」などと言われるくらいで、特徴的なミニスカート改造の車掌服にはシルバーアクセが光っている。
彼女はスポーツ観戦が割りと好きだったりするのだ。
たとえそれが野蛮な殴り合いのようなものであったとしても。
特に男同士がくんずほつれずするような競技では、見ていて濡れてしまう性質なのだ。
「うん、うん。ナイス・ファイ……」
サリーナは列車の座席に座り、格闘技試合でも鑑賞するような調子で頷いている。
その横ではコアラがユーカリの葉を噛みながら、寂寥感溢れるハードボイルドな眼差しで事態を見守っているのだった。熱い思いを秘めながらも、こうしてわざと斜に構えたポーズをとりたがるのが、このコアラの列車運転手(そして戦闘要員)の性格であるらしい。
「見事なものだな、隙がない。モーションの連携も素晴らしい。これなら三人や四人ならば、造作もなく殴殺できるだろう。これは眼福だ……!」
嘆賞するコアラはユーカリの葉を噛むのを止めた。どうやらこの決闘に敬意を表する気になったのか。彼、こうなる以前の元の世界では、警察の特殊部隊員だったそうな。
これは三本勝負で、一試合ごとに魔法の治療スプレーで全回復させる。
お互いに一本ずつ取り合い、三度目の戦いでは二人とも途中で泣き出してしまった。
それは彼らの運命への悲嘆のなせる業だろう。
実は魂だけでここに来ていて、現実の世界に戻れば、両者とも入院中で末期の老人でしかない。この列車の中では対決のために一時的に全盛期の姿に戻っているだけなのだ。
中国のチュンリーロンは、このリュウゾーがまだ生きている世界では民主派弾圧で死んでいる。それに中国は腐敗と暴政のために国内が崩壊して世紀末のようになり、ただでさえ艱難な時節に全世界からも自業自得の憎悪を買ってしまい(あまりにも非行が過ぎて日本にも世界にも大恥を晒し、国も民族も面目丸潰れで滅亡である)、抗いえない大破滅に突き進んでいるのだから、自分個人だけ多少敬われて長寿であっても救いにはならない。
リュウゾーはリュウゾーで、高度成長期の日本で太平楽に武芸の鍛錬や研鑽・研究している間に、頂上決戦の対決を夢見たライバルのチュンリーロンが不憫な横死を遂げ、衝撃と悲痛な思いを抱いていた。おまけに日本国内でも在日や左翼のマフィアに跋扈され、将来や次世代にまで国と社会に重荷と禍根を残す始末。終生愛した格闘技や武術の業界もまた反社会勢力に救い難く汚染され、もはや手がつけられぬ有様となっている。……もちろん隣国(中国)が国を挙げて犯罪と非行の一大匪賊国家となり、その猛然と腐臭を放つかのような、暗雲のような黒バエがブンブンするような残骸・屍と汚穢の山脈の無残な有様もまた直視に耐えない発狂の真実。
若かりし日に、もし東洋のカンフー(功夫)やウーシュウ(武術)がオリンピック競技になったら、自分や弟子の代で国際舞台に武勇の覇を競いたいなどと暢気に語らっていた頃を切実に思い出し、希望に満ちた往時の夢と今の現実における破滅の落差こそは真に悲嘆に耐えないのだろう。
はたして彼らの一生涯を懸けた情熱と修行とは何だったのか?
とうとう元の老人の姿に戻ってしまい、慟哭している男泣きは哀れを誘った。
コアラは決闘者たちの悲哀の胸中を察したのか、苦々しげな顔で、決まり悪そうにユーカリを噛み始める。彼自身が(過去に人間だった頃に)非業の運命を辿った経験があるだけに、案外に内心ではいたたまれなかったのかもしれない。
あえて「フン」とそっぽを向くコアラの目には、貰い泣きの涙が少しばかり溜まっていたかもしれない。
サリーナは困ったような、憐れむような目でそんな二人を見ていた。
ちょうどサービスの点心のお盆を持って入ってきたチャイナドレスのカリーナが入ってくる。こちらの相方であるカリーナは母が中国人なのである(中国三千年の暗黒面と酷刑にも通暁していた)。ヒソヒソと言葉を交わし、事情を理解して深く頷く。
「ほら、お爺ちゃんたち」
観客のコアラがぎょっとした顔で口の端からユーカリの葉を落とす。
サリーナは車掌腹を肌蹴てシャツを捲り、出血大サービスで見目良い双のオッパイをプルンと見せ晒していた。雪山のような秀麗な巨乳の頂に、ピンクの桜の花が一輪ずつ咲いている。
チャイナドレスのカリーナも深いスリットのある前垂れスカートをペロリと捲り上げ、挑発的に黒いパンティの腰を蛇行する黄河のうねりのように振って、その美麗の桃尻の上で金の刺繍のドラゴンを昇天的に踊らせた。
ここからが彼女たちの第二の本番、本領発揮。何しろ二人の娘はサキュバスなのだ。
「そんなに泣かないの。お昼ごはん持ってきてくれたから」
「老師タチ、元気出すネ。男ガ泣いたら駄目ヨ」
発音の訛りこそわざとらしかったが、カリーナは母親が中国人であるために、特にチュンリーロンに同情する気持ちもひとしおなのだろうと思われる。それにその友人でライバルでもあるリュウゾーにも憎からぬ感情を抱いていた。
サリーナはペロリと舌なめずりしている。彼女は芯からの淫魔で、淫乱・好色で性格がぶっとんでいるのだった。
二人の老人は呆気に取られていた。
だがしかし、ややあって万歳三唱し始める。螺子が飛んだらしい。
「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
この「万歳」という言葉は中国古典の漢語で、古代の三国志の時代には既にあった言い回しであるらしい。元は皇帝に叫ぶ喝采の言葉で「陛下の治世が一万年も続きますように」くらいの意味だったのだろう(王以下には「千歳」と叫ぶものだったらしい)。あの曹操が当時の後漢王朝の皇帝への「万歳」の声の前に立ちはだかって、皇帝のための特別な喝采の叫びを遮って横取りした傲岸不遜のエピソードもあるようだ。
ともあれ二人の老人は居直りもあってなのか、機嫌を直し落ち着いたようだった。
声を揃えて玉砕的に万歳し続ける。
「オッパーイ! オッパーイ! オッパーイ!」
「オッパーイ! オッパーイ! オッパーイ!」
二人の娘は目顔を見合わせ、男どもの単純なゲンキンさにクスクス笑いあった。男の本能は、喧嘩や競争と女や色気の事では、生き生きとしてくるものなのだろうか。
それから二人の老人は「我等、万死に値します」などと並んで土下座する。
照れ隠しだったのかもしれないが、自分たちの世代で各々の国や未来までを無茶苦茶にしてしまった世代の自覚と内心の無念さが、あるいはそういう言動になったものなのだろうか。……ちなみに「万死に当たる」とは歴史書『漢書』などでも、臣下が皇帝にへりくだるときなどの言い回しである。高度成長と戦後の繁栄で美徳が忘れられた甘やかされた戦後・団塊なりも修養と学問を積んだ、最後の古き良き生き残りでもあった。
しかし摂理はあられもなかった! 目も当てられぬ!
女の痴態と愛情が皇帝で、その前では男の剛勇も、失策無念の長老らも死に値する。
どうにもなりません! 申し訳御座いません!
これこそが人間の世の中における、不条理と幸福の縮図の有様であった。
『第二回戦は「夜の日中戦争」、ね? 戦場は、あ・た・しっ!』
『巨乳天使のサリーナ車掌が、今夜は老師たちをまとめてお相手しちゃうゾ! せっかくだから、わたしも特別サービスにお手伝いしちゃう?』
セクシーポーズでウインクする女車掌サリーナ。焚きつけ張り切る車掌代理カリーナ。
必ずしも必須ではなかったけれど、気分次第でお客様に特別サービス。
二人の漢(おとこ)たちは急に何かが漲ってきて、突如として全盛期の姿に戻る。
それから軽食で「乾杯!」してサキュバス女車掌との淫行で第二の死闘を繰り広げた。
流石のサキュバス(淫魔)・サリーナも、伝説の格闘家たちの底抜けの体力と性欲による攻撃を腹いっぱい堪能して、最後には幸福に酔っぱらったようになってしまった。
*
老武芸者たちは、いずれも元の世界に帰った数日後、安らかに息を引き取ったという。
しかも看護婦に痴漢したのは後先を考えることのなくなった強みなのか、最後の悪あがきの冗談だったのか知る由もない。
「見ていて可哀想だったけれど、最後は急に元気になって悪戯までしてきたわ」
「夢で昔の友達に会って一緒にエッチな飲み屋さんに行ったんだそうよ」
……などと、ナースステーションでは大往生を微笑ましく見送る声もあったようだ。
そしてチュンリーロンが亡くなった三日後に(彼のいる時間線では)、北京に水爆が投下され、わずか一時間の間にアメリカ、ロシアやインドなどの世界中から核を含む徹底爆撃が行われたようだ。中国は無条件降伏を余儀なくされ、世界の列強国による分割植民地支配が確立した。朝鮮半島は南北内戦と伝統的独裁で永遠の地獄そのものと化したという。
運行予定によって国際ターミナル駅()で停車中の復讐列車では、二人の獰猛そうな男が殺意十分に対峙している。
二人の伝説の格闘家は因縁の対決が叶わなくて絶望していたのだった。
片方は日本人のリュウゾー選手。もう片方は中国人のチュンリーロン選手。
「お前が共産党の弾圧で理不尽に殺されたのは真に遺憾だった」
「お前がコロナで亡くなったと聞いたときには正直ガッカリしたよ」
ストリートファイトのゲームのように、非現実的な暴力行為の対決が繰り広げられる。
ついに決戦の火蓋が切って落とされる。
「ファイッ!」
こういう手合いの扱いは、好きなだけ鼻血が出るまで殴り合わせておけばいいのだ。そのうち力尽き、満足もしてお開きになるだろう。ただし地下闘技場かどこか、他人の迷惑にならない場所でやってくれればそれで良いのである。
雄叫びを上げて猛然と拳を交わしながら、充実して幸せそうだ。
「がんばれー!」
どちらへともなく、無責任に黄色い野次を飛ばして手を叩く。
決戦試合に立ち会う栗毛碧眼の女車掌は二十歳過ぎくらい。
こちらのミス・ネメシスAは同じサキュバスでも、クールでカッコイイ女の色気と魅力がオーラに迸るかのようだ。父親がロシア人で白人の血が半分混ざっているせいなのか、ボディラインはグラマラスで、ふっくらとしたボインの胸のネームプレートには「サリーナ」の名札がついている。
サリーナはエアロボクシングのエクササイズや激しい調子の軽音楽を好むなど好戦的でより積極的な面がある(ロシア的粗暴性もある?)。そういった性格や好みは雰囲気や態度にもあわられるし、ファッションセンスなどにも反映し、「メタルとかやってそう」などと言われるくらいで、特徴的なミニスカート改造の車掌服にはシルバーアクセが光っている。
彼女はスポーツ観戦が割りと好きだったりするのだ。
たとえそれが野蛮な殴り合いのようなものであったとしても。
特に男同士がくんずほつれずするような競技では、見ていて濡れてしまう性質なのだ。
「うん、うん。ナイス・ファイ……」
サリーナは列車の座席に座り、格闘技試合でも鑑賞するような調子で頷いている。
その横ではコアラがユーカリの葉を噛みながら、寂寥感溢れるハードボイルドな眼差しで事態を見守っているのだった。熱い思いを秘めながらも、こうしてわざと斜に構えたポーズをとりたがるのが、このコアラの列車運転手(そして戦闘要員)の性格であるらしい。
「見事なものだな、隙がない。モーションの連携も素晴らしい。これなら三人や四人ならば、造作もなく殴殺できるだろう。これは眼福だ……!」
嘆賞するコアラはユーカリの葉を噛むのを止めた。どうやらこの決闘に敬意を表する気になったのか。彼、こうなる以前の元の世界では、警察の特殊部隊員だったそうな。
これは三本勝負で、一試合ごとに魔法の治療スプレーで全回復させる。
お互いに一本ずつ取り合い、三度目の戦いでは二人とも途中で泣き出してしまった。
それは彼らの運命への悲嘆のなせる業だろう。
実は魂だけでここに来ていて、現実の世界に戻れば、両者とも入院中で末期の老人でしかない。この列車の中では対決のために一時的に全盛期の姿に戻っているだけなのだ。
中国のチュンリーロンは、このリュウゾーがまだ生きている世界では民主派弾圧で死んでいる。それに中国は腐敗と暴政のために国内が崩壊して世紀末のようになり、ただでさえ艱難な時節に全世界からも自業自得の憎悪を買ってしまい(あまりにも非行が過ぎて日本にも世界にも大恥を晒し、国も民族も面目丸潰れで滅亡である)、抗いえない大破滅に突き進んでいるのだから、自分個人だけ多少敬われて長寿であっても救いにはならない。
リュウゾーはリュウゾーで、高度成長期の日本で太平楽に武芸の鍛錬や研鑽・研究している間に、頂上決戦の対決を夢見たライバルのチュンリーロンが不憫な横死を遂げ、衝撃と悲痛な思いを抱いていた。おまけに日本国内でも在日や左翼のマフィアに跋扈され、将来や次世代にまで国と社会に重荷と禍根を残す始末。終生愛した格闘技や武術の業界もまた反社会勢力に救い難く汚染され、もはや手がつけられぬ有様となっている。……もちろん隣国(中国)が国を挙げて犯罪と非行の一大匪賊国家となり、その猛然と腐臭を放つかのような、暗雲のような黒バエがブンブンするような残骸・屍と汚穢の山脈の無残な有様もまた直視に耐えない発狂の真実。
若かりし日に、もし東洋のカンフー(功夫)やウーシュウ(武術)がオリンピック競技になったら、自分や弟子の代で国際舞台に武勇の覇を競いたいなどと暢気に語らっていた頃を切実に思い出し、希望に満ちた往時の夢と今の現実における破滅の落差こそは真に悲嘆に耐えないのだろう。
はたして彼らの一生涯を懸けた情熱と修行とは何だったのか?
とうとう元の老人の姿に戻ってしまい、慟哭している男泣きは哀れを誘った。
コアラは決闘者たちの悲哀の胸中を察したのか、苦々しげな顔で、決まり悪そうにユーカリを噛み始める。彼自身が(過去に人間だった頃に)非業の運命を辿った経験があるだけに、案外に内心ではいたたまれなかったのかもしれない。
あえて「フン」とそっぽを向くコアラの目には、貰い泣きの涙が少しばかり溜まっていたかもしれない。
サリーナは困ったような、憐れむような目でそんな二人を見ていた。
ちょうどサービスの点心のお盆を持って入ってきたチャイナドレスのカリーナが入ってくる。こちらの相方であるカリーナは母が中国人なのである(中国三千年の暗黒面と酷刑にも通暁していた)。ヒソヒソと言葉を交わし、事情を理解して深く頷く。
「ほら、お爺ちゃんたち」
観客のコアラがぎょっとした顔で口の端からユーカリの葉を落とす。
サリーナは車掌腹を肌蹴てシャツを捲り、出血大サービスで見目良い双のオッパイをプルンと見せ晒していた。雪山のような秀麗な巨乳の頂に、ピンクの桜の花が一輪ずつ咲いている。
チャイナドレスのカリーナも深いスリットのある前垂れスカートをペロリと捲り上げ、挑発的に黒いパンティの腰を蛇行する黄河のうねりのように振って、その美麗の桃尻の上で金の刺繍のドラゴンを昇天的に踊らせた。
ここからが彼女たちの第二の本番、本領発揮。何しろ二人の娘はサキュバスなのだ。
「そんなに泣かないの。お昼ごはん持ってきてくれたから」
「老師タチ、元気出すネ。男ガ泣いたら駄目ヨ」
発音の訛りこそわざとらしかったが、カリーナは母親が中国人であるために、特にチュンリーロンに同情する気持ちもひとしおなのだろうと思われる。それにその友人でライバルでもあるリュウゾーにも憎からぬ感情を抱いていた。
サリーナはペロリと舌なめずりしている。彼女は芯からの淫魔で、淫乱・好色で性格がぶっとんでいるのだった。
二人の老人は呆気に取られていた。
だがしかし、ややあって万歳三唱し始める。螺子が飛んだらしい。
「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
「バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」
この「万歳」という言葉は中国古典の漢語で、古代の三国志の時代には既にあった言い回しであるらしい。元は皇帝に叫ぶ喝采の言葉で「陛下の治世が一万年も続きますように」くらいの意味だったのだろう(王以下には「千歳」と叫ぶものだったらしい)。あの曹操が当時の後漢王朝の皇帝への「万歳」の声の前に立ちはだかって、皇帝のための特別な喝采の叫びを遮って横取りした傲岸不遜のエピソードもあるようだ。
ともあれ二人の老人は居直りもあってなのか、機嫌を直し落ち着いたようだった。
声を揃えて玉砕的に万歳し続ける。
「オッパーイ! オッパーイ! オッパーイ!」
「オッパーイ! オッパーイ! オッパーイ!」
二人の娘は目顔を見合わせ、男どもの単純なゲンキンさにクスクス笑いあった。男の本能は、喧嘩や競争と女や色気の事では、生き生きとしてくるものなのだろうか。
それから二人の老人は「我等、万死に値します」などと並んで土下座する。
照れ隠しだったのかもしれないが、自分たちの世代で各々の国や未来までを無茶苦茶にしてしまった世代の自覚と内心の無念さが、あるいはそういう言動になったものなのだろうか。……ちなみに「万死に当たる」とは歴史書『漢書』などでも、臣下が皇帝にへりくだるときなどの言い回しである。高度成長と戦後の繁栄で美徳が忘れられた甘やかされた戦後・団塊なりも修養と学問を積んだ、最後の古き良き生き残りでもあった。
しかし摂理はあられもなかった! 目も当てられぬ!
女の痴態と愛情が皇帝で、その前では男の剛勇も、失策無念の長老らも死に値する。
どうにもなりません! 申し訳御座いません!
これこそが人間の世の中における、不条理と幸福の縮図の有様であった。
『第二回戦は「夜の日中戦争」、ね? 戦場は、あ・た・しっ!』
『巨乳天使のサリーナ車掌が、今夜は老師たちをまとめてお相手しちゃうゾ! せっかくだから、わたしも特別サービスにお手伝いしちゃう?』
セクシーポーズでウインクする女車掌サリーナ。焚きつけ張り切る車掌代理カリーナ。
必ずしも必須ではなかったけれど、気分次第でお客様に特別サービス。
二人の漢(おとこ)たちは急に何かが漲ってきて、突如として全盛期の姿に戻る。
それから軽食で「乾杯!」してサキュバス女車掌との淫行で第二の死闘を繰り広げた。
流石のサキュバス(淫魔)・サリーナも、伝説の格闘家たちの底抜けの体力と性欲による攻撃を腹いっぱい堪能して、最後には幸福に酔っぱらったようになってしまった。
*
老武芸者たちは、いずれも元の世界に帰った数日後、安らかに息を引き取ったという。
しかも看護婦に痴漢したのは後先を考えることのなくなった強みなのか、最後の悪あがきの冗談だったのか知る由もない。
「見ていて可哀想だったけれど、最後は急に元気になって悪戯までしてきたわ」
「夢で昔の友達に会って一緒にエッチな飲み屋さんに行ったんだそうよ」
……などと、ナースステーションでは大往生を微笑ましく見送る声もあったようだ。
そしてチュンリーロンが亡くなった三日後に(彼のいる時間線では)、北京に水爆が投下され、わずか一時間の間にアメリカ、ロシアやインドなどの世界中から核を含む徹底爆撃が行われたようだ。中国は無条件降伏を余儀なくされ、世界の列強国による分割植民地支配が確立した。朝鮮半島は南北内戦と伝統的独裁で永遠の地獄そのものと化したという。