く ち な し―身代わりの恋
レンタカーが前に止まり、夫の祐介が降りてきた。
やけに勝ち誇ったような顔をしている。

「乱暴したら傷害罪で訴えるぞ」

祐介は、山脇さんを掴んでいた大橋の手を払い除けると、少し離れていた私の方を見た。

「分かりやすいんだよ、お前」

その目は、軽蔑と憎悪とが入り混っていた。

「急に強気に離婚なんて言い出すから、絶対に後ろで糸引いてる奴がいるって思ったんだ」

今度はその目を大橋に向け、唇の端を歪ませて笑った。

「あんた。物好きだな。こんなマグロなオバサンの何処がいいんだ?」

その挑発にまんまと乗った大橋は、

「ダメっ!!」

私の制止も間に合わず、祐介の顔を拳骨で殴ってしまった。
祐介が大袈裟な位に倒れ、かけていた伊達眼鏡が地面に落ちた。

「大丈夫ですか!?」

そのそばに山脇さんが駆け寄ると、

「バカ! 今のをちゃんと動画で撮れよ! 使えねーな!」

凄んで、再び画像に収めさせる。

「梓、車に」

シャッターが連打される中、大橋は私を自分の車に乗せようとした。

「お前はこっちだろ!」

それを祐介が阻んで私の腕を掴む。

「放して!」

こんなあざとい男、嫌だ。

振り払おうとしても、折れそうな位、強く握られてダメだった。
祐介は大橋を山脇さんに押さえさせ、乱暴に私を車に押し込むと、

「お前は、一生、俺のシモベだよ」

そう吐き捨てて笑った。
< 125 / 156 >

この作品をシェア

pagetop