く ち な し―身代わりの恋
―夜遅くに帰宅した夫。

「なぁ、明日の小学校運動会の来賓、代わりに行ってくれよ」

脱衣場を覗き、素っ裸の私を見ても、何の反応も示さずに要件だけを言う。

「明日の昼間は他に予定入ってなかった筈でしょ?」

恥じらいを忘れた私もまた、平気で下着を着ける。

「Y市のスポーツセンター視察を山脇がスケジュールに入れてなかったんだよ」

「視察?」

山脇とは秘書の男性だ。

「そう、だから頼む。皆の前で挨拶する事もないからさ!」

私は、色気のないコットンの家着を纏って、「わかりました」と返事をした。
行事を代わりにこなすのも妻の仕事だ、と婦人部の港口さんが言っていたっけ。

選挙の時の大変さに比べたら、まだいい。
あの時は演説に付き添ったり、挨拶回りをしてチラシを配ったり、かなりきつかったもの。

そう自分に言い聞かせ一人、シングルベッドに潜り込んだ。

夫は隣の書斎で資料作り。
子作りは、結婚三年目まで頑張ったけれど、あとはしてない。

これからも、ずっと、こうやって一人で寝る夜を過ごすんだろう。

私は、明日が雨になればいいな、なんて身勝手な事を思いながら眠りについた。
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