君の隣は、呼吸ができる

第13話 好き、なんだね

✴✴✴

突然、サイドテーブルに置いていたスマホが震えて、現実に引き戻される。

「……あ」

ベッドに座り込んだまま、小さく声が漏れた。
静かな部屋に、エアコンの音だけが淡々と響いている。

メッセージを開くと、
友だちから、明日のフットサル観戦の待ち合わせ確認だった。

(断っておくの忘れてたー!)

慌てて、謝罪とあわせて返信を打つ。

『真樹が行かないから、私もやめておくね』

――指が止まる。

今までだって、それが当たり前だった。

そう思った瞬間。
胸が騒がしくなって、スマホを握ったままベッドに倒れ込む。

天井を見つめながら息を整える。

私はいつも、真樹ばかりを目で追っていた。

試合の行方よりも、誰がゴールを決めたかよりも。
彼が笑っているかの方が大事だった。

毎朝、真樹の少し後ろを歩いて駅へ向かう。
満員電車では、何も言わずに私を庇うように立ってくれる。

あの息苦しくて窮屈な車内。
私にとっては、一日の中で一番安心できる場所でもあったんだ。

面白かったことを伝えたくて。
美味しいものを見つけたら教えたくて。
友だちと出かけるたびに、真樹へのお土産を考える。

私の頭の中には、いつも真樹がいる。

離れても私たちは変わらないと分かって、安心したはずなのに。

胸の奥が熱くて、ひどく苦しい。


壁に飾った、テーマパークのイベント写真に目がいく。
王子様の隣で微笑む、お姫様。

これから先、真樹の隣にお姫様が現れたら。
それが私以外の誰かだと想像しただけで、息ができなくなる。

当たり前にできていた呼吸の仕方を、忘れてしまいそうになるくらいに。

(真樹の隣には、私がいたい)

そう。

(……幼馴染としてではなくて……)

これが――

「好き、なんだね」

ぽつりとこぼれた言葉が、静かな部屋に溶けていく。


積み重ねてきた何年もの時間が、たった一言で塗り替えられてしまった。

こんなに近くにいたのに。

さっき、『大事な幼馴染』って言ったばかりなのに。

そうじゃないって、今になって気付くなんて。

「……私のバカ……」

口元がわずかに震えて、視界が滲んだ。
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