Honey Melty


皺一つない紺色のスーツに白シャツ、カチッと締められているネクタイ。

髪は軽くパーマがかかっていて女子社員から好評だ。ちなみに私もとっても好き。

チクチクした髭もなく脱毛でもしてるのか?と問いたくなるほど綺麗な肌に口元のほくろが色っぽくて、それも好き。

アーチを描いたようなくっきりとした目、ほどよく高い鼻に薄くて健康的な赤色をした唇も魅力的で、好き。

トータル、全部、好き。この人が、咲間聖吏のことが世界の誰よりも好きだ。


「めちゃくちゃ睨まれてる気がするんだけど、まさか怒ってるわけじゃないよな?」
「睨んでませんし、怒ってません」
「よかった。てか、さっきの真鳥、綺麗で見入っちゃった。もっかい見せてよ」
「さっきの、とは?」
「こうやって、空に桜かざすやつ」


咲間さんは背後から私の腕を掴んで「さっきの真鳥」を再現しだした。布越しだというのに彼の熱に犯されそうだ。落ち着け私。息をしろ私。

桜が夜空に浮かぶ。さっきと同じ光景なはずなのに、咲間さんがいるだけで全くの別世界のように見えて、胸がキラキラとときめいた。


平日だというのに賑わう店内にびっくりしながら水滴がたっぷりとついたジョッキを目の前に座る人物と合わせる。

なぜか咲間さんと会社近くの大衆居酒屋へとやってきた私。なんでも、今日入っていた予定が急遽取りやめになって暇になったらしい。そこにちょうど私がいたので「飲みに行かない?」と。

たとえ暇つぶしだとしても2人で飲みに行けることは奇跡に近いので、喜びを噛み締めてジンジャーハイボールをググッと流し込んだ。

「写真とか昔から苦手でさ、でも、ほら、同期のために頑張ったわけよ」

話題は昼間のチェキ。

私が所属する経理部の先輩が寿退社をされる。先輩の同期、咲間さんもその一人なんだけど、ささやかなお祝いということで経理部と同期、他に交流があった人たちのチェキを撮ってアルバムか何かに貼るのだと。

『——真鳥さん、もう少し笑えないかな』

ふと思い出して唇を噛む。

精一杯、笑っているつもりだったけど、周りから見たら真っ白なキャンパスに真っ白な絵の具を塗ったような、そんな感じに見えたんだろうな。

「真鳥のチェキ見たよ」


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