乾杯はふたりだけの秘密
佐々木の後ろ姿を見送ってから視線を賢吾に戻すと、神妙な顔つきで向けられる眼差しに、無意識に息を詰めた。
「たぶん佐々木先輩、今の本気にしてますよ」
「え?」
「もしデートに誘われたら、断ってくださいね」
断ったほうがいいですよ、と言わないところに、胸をくすぐられる。
「わかってるよ」
賢吾が口にしたのは、不満ではなく不安だとわかる。特に佐々木に対しては、不信感しか抱いていないはずだ。少しでも賢吾に不安を与えるようなことは全て排除したい、と思えるのは、きっと自分も同じ気持ちだからだろう。
「至福のひとときに邪魔が入ったね」
気分を変えようと、結衣は冗談ぽく笑った。
「マジで。今日だけは絶対に会いたくなかった人です」
賢吾の大袈裟な言葉に、結衣は思わず吹き出した。
自分を笑わせようとして言ったわけではない本気さが、余計に可笑しい。肩を震わせながら顔を上げると、賢吾が感情を隠すように口元を手のひらで覆った。
「まあ嫌なことは忘れて食べましょう。せっかくの貴重な時間と旨いカレーがもったいないんで」
賢吾は気分を切り替えるように短く息を吐いてから笑顔を見せた。さりげなく挟まれた「貴重な時間」というフレーズに、胸をときめかせずにはいられない。
賢吾がスープの中にスプーンを差し入れ、当てもののようにゆっくりとかき混ぜるのを眺めながら、結衣は昨夜のシチューを思い出していた。
そうして掬い上げた白い玉に、ふたりは目を丸くした。
「まさかのうずら卵!」
不意打ちの驚いた表情があまりにも可愛すぎて、思わず頬が緩む。
貴重な時間は、あとどれくらい続くのだろうか。店内に流れる心地よい民族音楽に耳を傾け、想像だけが頭の中でどんどん膨らんでいく。
食後のコーヒーを飲み終えると、「そろそろ出ましょうか」と賢吾が言った。
「そうだね」
結衣がコートを着て財布を手にすると、賢吾は「しまって」というように、片手で押し返すような素振りを見せた。
「ご馳走さま」
結衣は賢吾の好意に素直に応じた。
「たぶん佐々木先輩、今の本気にしてますよ」
「え?」
「もしデートに誘われたら、断ってくださいね」
断ったほうがいいですよ、と言わないところに、胸をくすぐられる。
「わかってるよ」
賢吾が口にしたのは、不満ではなく不安だとわかる。特に佐々木に対しては、不信感しか抱いていないはずだ。少しでも賢吾に不安を与えるようなことは全て排除したい、と思えるのは、きっと自分も同じ気持ちだからだろう。
「至福のひとときに邪魔が入ったね」
気分を変えようと、結衣は冗談ぽく笑った。
「マジで。今日だけは絶対に会いたくなかった人です」
賢吾の大袈裟な言葉に、結衣は思わず吹き出した。
自分を笑わせようとして言ったわけではない本気さが、余計に可笑しい。肩を震わせながら顔を上げると、賢吾が感情を隠すように口元を手のひらで覆った。
「まあ嫌なことは忘れて食べましょう。せっかくの貴重な時間と旨いカレーがもったいないんで」
賢吾は気分を切り替えるように短く息を吐いてから笑顔を見せた。さりげなく挟まれた「貴重な時間」というフレーズに、胸をときめかせずにはいられない。
賢吾がスープの中にスプーンを差し入れ、当てもののようにゆっくりとかき混ぜるのを眺めながら、結衣は昨夜のシチューを思い出していた。
そうして掬い上げた白い玉に、ふたりは目を丸くした。
「まさかのうずら卵!」
不意打ちの驚いた表情があまりにも可愛すぎて、思わず頬が緩む。
貴重な時間は、あとどれくらい続くのだろうか。店内に流れる心地よい民族音楽に耳を傾け、想像だけが頭の中でどんどん膨らんでいく。
食後のコーヒーを飲み終えると、「そろそろ出ましょうか」と賢吾が言った。
「そうだね」
結衣がコートを着て財布を手にすると、賢吾は「しまって」というように、片手で押し返すような素振りを見せた。
「ご馳走さま」
結衣は賢吾の好意に素直に応じた。