友達以上恋人未満

第2話:作戦会議は放課後のファミレスで

「――えっと、これが楓くんの、その、基礎データ……です」
放課後のファミリーレストラン。ドリンクバーのチャイナブルーが溶けかけたグラスの横に、美奈ちゃんがそっとノートを差し出してきた。
丁寧な文字で『楓くんについて』と書かれたそのページには、誕生日や部活(サッカー部)、よく喋る男友達の名前などがびっしりと並んでいる。健気だ。健気すぎて、私の胸の奥がチクチクと痛む。
「すごいね、美奈ちゃん。よく調べてる」
「ううん、全然……! 席が近いときに、聞き耳立ててただけだから。ストーカーみたいで気持ち悪いよね……」
「そんなことないよ。好きな人のこと、知りたくなるのは当然だし」
私はポテトフライを一本口に放り込み、塩気と一緒に胸の痛みを飲み込んだ。
「じゃあ、さっそく『一番の親友』からのアドバイスね」
私は努めて明るい声を出し、カバンからシャーペンを取り出した。美奈ちゃんのノートの余白に、楓の生態を書き加えていく。
「まず、楓は朝にめちゃくちゃ弱い。低血圧だから、午前中は話しかけても生返事が多いよ。だから、話しかけるなら昼休みか放課後がベスト」
「昼か、放課後……」
「あと、基本は肉食。唐揚げとラーメンがあれば生きていけるタイプ。あ、でも、甘いものも実は好きだよ。コンビニの新作スイーツとか、よく私と半分こして……」
そこまで言って、ハッと口を突く。
『私と半分こして食べてる』。そんなの、美奈ちゃんからしたら聞きたくない情報のはずだ。
「あ、ごめん。余計なこと言っちゃった」
「ううん! ううん、違うの!」
美奈ちゃんは激しく首を横に振った。その瞳は、嫉妬ではなく、純粋な尊敬と羨望で輝いている。
「やっぱり由良ちゃんはすごいなって。私、そういう『普段の楓くん』が知りたかったの。……由良ちゃん、本当に楓くんのこと、よく見てるんだね」
「……まぁ、付き合い長いからね」
嘘つき。
私は心の中で自分を罵った。付き合いが長いからじゃない。中2のあの冬から、一秒だって楓のことを見落としたくなくて、必死に目に焼き付けてきただけだ。
「それでね、美奈ちゃん。楓と仲良くなるための、最初の作戦なんだけど……」
私はノートに小さく丸を描いた。
「明日、サッカー雑誌を机に出しておいて。今月、楓がめちゃくちゃ欲しがってた特集が載ってるやつがあるの。楓、絶対それ見つけて『これ買ったの!?』って食いついてくるから。そしたら、『良かったら読む?』って貸してあげるの。どう?」
美奈ちゃんの目がパッと明るくなった。
「やる……! 本屋さん寄って帰る!」
「うん、頑張って。あいつ、単純だから絶対引っかかるから」
笑う私の顔は、ちゃんと「良き相談相手」になっているだろうか。
美奈ちゃんが嬉しそうにノートを抱きしめる姿を見ながら、私はドリンクバーのメロンソーダをストローでぐるぐるとかき混ぜた。
私が何年もかけて、フラれて、傷ついて、それでも必死に集めた「楓の好きなもの」。
それを今、自分の手で、他の女の子にプレゼントしている。
居心地のいい特等席を守るための代償にしては、この胸の痛みは、ちょっとばかし重すぎる。
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