恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

約束


「婚約解消おめでとうございます、セシリエさん。今日はひとりでこちらに?」

「ふふ、エーリッヒさん、ありがとうございます。兄は昨日、父と酒盛りして二日酔いになってしまって。母は商会がありますし、私ひとりで来ました。あ、でも護衛は付いてますよ?」

「ああ、それはそうか。セシリエさんは貴族ですからね。なら安心です」


アーノルドから報告書を貰う為に通っていたケーキショップの筈が、いつの間にかすっかりお気に入りの店になっていたセシリエは、婚約解消が決まってもう行く必要もないのに、気づけばこの週末も足が向かっていた。

そこで偶然、アーノルドの弟エーリッヒに出会(でくわ)したのだ。どうやら彼もケーキを食べに来たらしい。

そのまま何となく同席となり、エーリッヒはケーキを5つ、セシリエは2つオーダーした。


「・・・思ったよりも早くて、びっくりしました」


それはケーキが出てくるまでの時間ではなく。

セシリエとイアーゴの婚約解消の事を言っていると気づいたセシリエは、そうですね、と頷いた。


「ドミンゴ子爵が早めに決断したみたいですよ。父の剣幕に恐れをなしたのかもしれませんね。正解だと思います」


もしあちら(ドミンゴ)がゴネたら、怒ったセオドアが解消から破棄へと切り替え、かなりの額の慰謝料を請求しただろう。たぶん他にも報復措置を付けて。
でもその分、余計に時間はかかった筈。

こちら(ハンメル)としては、慰謝料なぞより早々にイアーゴとの繋がりを切りたかった。

だって、ハンメルには金がある。それはもう、国王から爵位を賜るくらいには稼いでいるのだ。

あちらにとってハードルの高い婚約破棄を突きつけても、余計に時間や手間がかかるだけ。

迅速に対応するだけで、あちらの瑕疵の度合いが減るのだ。その辺りのロドリゴ・ドミンゴの判断は早かった。
息子の監督という面ではダメダメだったが、商人としての見極めは出来る人の様だ。


なんて考えに耽っていると、向かいの席からエーリッヒが少し沈んだ顔で口を開いた。


「僕もお手伝いをすると言って・・・結局、出番はあれきりでしたね」

「あら、あの時は本当に助かったのですよ。エーリッヒさんにしかできない役でしたもの。アーノルドさんも頑張って調べてくれましたし、本当にお2人にはお世話になりました」

「そう言ってもらえると嬉しいけど」


ケーキをつつきながら、エーリッヒは苦笑する。


「兄はいつも浮気調査しか仕事がないとぼやいてましたが、今回のことでちょっと仕事に対する見方が変わったようです。正直、僕も就職先を情報ギルドに変えるのもありかな、なんて思いました」

「エーリッヒさんは何を希望されてるんです?」

「ケーキの・・・小さな店でいいので、ケーキショップのオーナーになりたいんです」

「オーナー、ですか? 作る方ではなく?」

「ええ。何度か挑戦したんですけど、僕は食べる才能しかないみたいで。自分でケーキを作るのは諦めました」

「まあ、ふふ、食べる才能ですか。それを言うなら私もですね。私もケーキは食べる専門です。クッキーなら作れますけど」

「・・・あ、そうだ。それなら」


何か思いついたらしいエーリッヒが、ぱっと顔を上げる。


「僕の店が持てた時にケーキをご馳走します。前にたくさんケーキを食べさせてくれたお礼に」

「エーリッヒさんたら。あれは私たちからのお礼でご馳走したんですよ? お礼にお礼って変じゃないですか」

「そうでした。じゃあ、婚約解消のお祝いならどうですか」

「まあ、それはもちろん嬉しいですけど」


随分と先の長い約束に、セシリエは吹き出した。


「でもそれなら、早くお店を持ってくださらないと、私、待ちくたびれてしまいますよ?」

「あ」


エーリッヒはそうか、と呟いて、それから顔を赤くして頬を掻いて。


頑張ります、とガッツポーズをした。


< 7 / 22 >

この作品をシェア

pagetop