札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~
外見はいかにも迷い込んだ平民で、なぜか乗馬スタイル。
しかしディルムーン辺境伯の娘らしいといえば、その通りだった。

(まさかディルムーン辺境伯の娘が名乗り出るとは……)

予想外の人物にロベールは唇を歪めた。
結婚相手を探すために大々的に人を集めて正解だった。

ロベール・エンバルト、エンバルト公爵家の当主だ。
先代公爵の失態を機に代変わりをして、信頼回復のために粛々と業務をこなす日々。
時には巨漢で見るに耐えない姿だと言われ、時には愛想のいい青年、かわいらしい少年の姿になることもある。
どれもロベール・エンバルトだった。
表舞台に出る時は変装しているため誰も本当のロベールの姿を知らない。

唯一の共通点は蜘蛛の巣を模したような目元を覆い隠すシルバーの仮面だけ。
それがエンバルト公爵家の当主たる証だった。

ロベールはいつも仮面をつけて素顔を隠していた。
自分の顔が嫌いだった。忌々しい血筋を引いていることが許せない。
鏡に映る人形のように正気がなく、心が死んだ自分を見ていると、わずかに残る昔の自分が嘆くのだ。

(……馬鹿馬鹿しい。もう俺には何も残っていないというのに)
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