余所者-よそもの-【 3 】
目の前に悲しく横たわる、壊れかけた大切な存在。
僕は脳のスイッチを入れるように、彼女の頬を二度、優しく叩いた。
――ペチ、ペチ。
「……ぅん?」
瞬きと共に、瞳孔が開く。
焦点の合わなかった目に光が戻り、掠れた声で小さく鳴いた。
「ママ。迎えに来た」
「ちかげ?」
「うん。ごめんね、遅くなって」
「のど……かわいた」
頭の反応が鈍い。
僕だとわかっても、何が起きているのか理解していない。
ママはのっそりと身体を起こし、ベッドの下に転がったペットボトルを手に取った。
「それを飲んだら行こう」
「………」
「もう、時間がないから」
「………」
ママは水をごくごくと飲んだ。
500mlのペットボトルが、あっという間に空になる。
飲み口から口を離せば、顎に雫がタラタラと伝った。
「行こう」
そう言って引いた手に、強い反発が返ってきた。
「行かない!」
――パシン、と振り払われた手。
「………」
紫藤への怒りが、拳の形になる。
それをそっと背中に隠した。