余所者-よそもの-【 3 】
「俺らは一応、普通ってモンを知ってから、自分たちの足でここまで堕ちたんだけどぉ」
「………」
「でも。チカ様は、最初からここしか知らない」
そう言って、「ハハ」と苦しそうに笑った。
「だから一度くらい、普通ってヤツを味わってみてほしいなぁってずっと思ってたから」
「………」
「俺ぇ、チカ様のあんな顔初めて見た。『行ってきます』って言った時の、あの顔」
デックの目尻が、少しだけ下がる。
「あの人にとって、『行ってきます』って言える場所は、多分ここが初めてだ」
――そんなの、ただのありふれた日常。
私にとっては当たり前すぎて、意識したこともなかった言葉。
それを千景はずっと、知らずに生きてきた。
『行ってきます』も。
『おはよう』も『おやすみ』も。
「チカ様を許してほしいなんてことは思わない。でも……なんだろ。俺ぇ、何が言いたかったんだっけなぁ」
「………」
「……ああ、そうだぁ」
「なに?」
「ありがとうねぇ」