Bitter Peach─この想いを、恋と呼べないまま─

13.三者三様

 幹事は〝休日はカレンダー通りだ〟と言っていたけれど、合コンは土曜日だったので日曜日も待っていたけれど、月曜日になっても彼から連絡は来なかった。
『柚月、あれから誰かにLINEした? 気になる人おった?』
 と友人から連絡があったので、正直に〝幹事に連絡したけど返事がない〟と言った。
『あ──幹事なぁ……』
「何か知ってんの?」
『私も初対面やったから詳しくは知らんのやけど』
 友人は声のトーンを落としてから、柚月に教えてくれた。彼は一緒に帰った女性のうち一人と最終的に二人になって、女性に押しきられて身体の関係を持ってしまったらしい。
「え……そうなん……」
『幹事さぁ、帰り際、LINEしたい子いるって言ってたやん? あれ、柚月やったみたいやで』
「ええーっ」
 だから余計に返事ができないのだろう、と友人は続けた。友人には、幹事の友人の同僚男性が教えてくれたらしい。合コンの男性たちの中では幹事が一番人気だったので、一人で帰るときにものすごく負けた気がしていた。
『ちゃんと知らんけど、たぶん、付き合うんちがうかなぁ。幹事って責任感強そうやん?』
「そうやなぁ」
 実際のことは本人に聞かないとわからないけれど、柚月は幹事からの連絡を待つのをやめてしまった。もしも前向きな連絡があったとしても、柚月は幹事とは付き合えないと思った。
 理由はもちろん、他の女性と関係を持ってしまっていることだ。
 いくら押しきられてしまったとはいえ、柚月のことが気になっているなら断ってほしかった。幹事がその女性のことをどう思っていたのかは分からないけれど、合コンの様子だけを見ると、女性が一方的に質問攻めしているように見えた。関係を持つのが悪いとは言わないけれど、せめて今回は幹事には柚月の話を聞くまで待ってもらいたかった。
 その日の夜になって、ようやく幹事から連絡があった。
『返事遅くなってごめん。こないだはありがとう! もうちょっと話したかったけど……帰る方向違って残念』
 柚月がその返信に迷っていると、幹事から続けて連絡が来た。
『今度、二人で会われへんかなぁ?』
 もし柚月が友人から話を聞いていなかったら、イエスの返事をしたかもしれない。けれど友人から合コン帰りのことを聞いてしまったので、二つ返事で会うとは言えなかった。
『私もそう思ってたんですけど、他の人と仲良くなったって噂を聞いて……』
『聞いたんか。確かに事実やけど……付き合ってはないで! 付き合ってって言われたけど、断ったし。重いの苦手なんよなぁ』
『重い?』
『本気で付き合ってたら、いつか結婚の話になるやん? そういうの今はいいわ。でも柚月ちゃんとは遊べそうと思って』
 遊べそう──?
 柚月はスマホの画面を見つめたまま呆然と固まってしまった。そういう雰囲気を出した覚えはないし、むしろ本当の恋人がほしくて合コンに参加した。
 実家を出ているとは言ったけれど一人暮らしではないし、ルームシェアをしているので家には人をあまり呼べない。門限は特にないけれど、輝生が待ってくれているのであまり遅くなるのは申し訳ない。
 そんな話を簡単にして、将来を考えた恋人にフラれたばかりだとも話した。久しぶりの自由すぎる日々で寂しいけれど、気軽に遊べる相手がほしい、なんて一言も言っていない。
『なんで私なんですか?』
『女の子の中で一番かわいかったから! どうせなら可愛い子と遊びたいし。いつ会えるかな? 仕事帰りにホテルでも良いし、俺の部屋で──』
 ────最低。
 柚月は幹事にはそのまま返事をせず、連絡先もブロックした。柚月もいまは結婚は考えていないけれど、彼のような軽い考えの相手と遊ぶのは嫌だった。輝生が〝無益な付き合いはしない〟と言っているのと似ている気がするけれど、交際=結婚、とまで絞るつもりはないので恋人は輝生より先にできると信じていた。
「あれ? こんな時間から、明日起きれるのか?」
 柚月が部屋から出てキッチンに行くと、リビングで輝生がソファに座ってテレビを見ていた。夕食も入浴も済ませたあとで、いつもなら柚月は寝る時間だ。
 輝生が心配したのは、柚月がお酒を飲もうとしていることだ。
「良いんです、飲みたい気分なんで。……田﨑さん──男の人って、遊ぶほうが良いんですか?」
「……は?」
 柚月は小さめのグラスに氷を入れてから梅酒を注いだ。それを持って輝生のほうへ行き、出会ったときに正座をした場所に楽な姿勢で座った。
「こないだ、合コンだったんですけど」
「……うん?」
「一人、いい人がいて、LINEして返事待ってたんですけど」
「うん?」
「さっき連絡がきて……」
 柚月は続きを言う前に、梅酒を口に入れた。
「会いたいって言ってくれてたんですけど」
「うん? 会うのか?」
 柚月は黙って首を横に振った。
「私は若いから〝遊べそう〟って……真剣なのは、重いのは苦手、って言われたんです」
「……なるほど」
 輝生は見ていたテレビを消して、柚月のほうを向いた。
「合コンのときはまともに思えたのに、そんなこと言われたから悲しくて……。真剣に考えようと思ってたけど、ブロックしました」
「ふぅん。俺とは反対だけど……そういう奴もいるかもな。特に若いと──遊びたい盛りだろうし。でも女は若くても、妊娠でもしたらすぐ結婚って言うし」
「田﨑さんは──、彼女まだいないんですか?」
「……いない。良い奴もいないし。それに……俺はそいつと逆で真剣に考えたいから、転勤についてきてくれるくらいじゃないと無理」
 一人で引っ越して泊まりがけでデートに来てくれる直幹と、都合が良いときに遊びたいだけの幹事と、将来のことまで考えて一緒にいてほしい輝生。出会った男性の考えがバラバラで、全く参考にならなくて柚月はため息をついた。
「ちなみに、ルームシェアのことは話したの?」
「いえ……ルームシェアしてるとは合コンで言ったけど、男とは言ってません」
「ふぅん。……あのさ」
「はい?」
「俺の同僚──若い奴らが、柚月のこと紹介しろって言ってんだけど」
「え?」
「前は〝男いるから〟って断ったけど、別れたらしい、って話したら、うるさくて」
「え……、田﨑さんの同僚ってことは、転勤の可能性もあるってことですよね?」
「そうなるな」
「む、無理です……。それに、なんか嫌です」
 柚月は身体を前に倒してテーブルに置いたグラスを両手で掴んでいたけれど、ほんの少しだけ身体を起こして輝生から遠ざけた。
「……俺は関係ないぞ」
「いや、そんなこと」
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