Bitter Peach─この想いを、恋と呼べないまま─
15.ただ、それだけ
『近いうちにまた合コンやるけど、柚月どう?』
学生時代の友人から、何度目かわからない合コンの誘いがきた。平日の夜、全ての用事を済ませてから部屋に戻ると、放置していたスマホに着信履歴があった。LINEにするか迷った末に、電話をかけ直した。
「うーん……しばらくいいかな……。ごめん、お願いしたのに」
『それは良いんやけど……どうかしたん? 元気ないやん?』
「そうかな……」
『あっ、合コン──うまくいってないから?』
気に入った相手がいても連絡を取っているうちにダメになってしまうことは、友人にも報告していた。最初の幹事がとても軽い男だったことも、輝生とのルームシェアが嫌がられることも、全て話していた。
「幹事のときは論外やったけど、そのあとはだいたいルームシェアの話で嫌がられてさぁ。私もそんな人、嫌やもんなぁ」
輝生との暮らしにはずいぶん慣れて、気になることもほとんどなくなった。同年代の女性とルームシェアしているよりは防犯面で安全な気がして、彼が高身長のおかげで頼めることもあって、時間があれば料理を教えてもらえることもあったので、どちらかというと柚月は快適に暮らせていた。
『柚月、その人のこと……好きなん?』
「えっ? ないない。それに、あっちもなに考えてんのか分からんこと多いし」
輝生も最初と比べるとずいぶん丸くなったけれど、何を考えているのか何も考えていないのか、分からないことは多い。冷たいことを言いながら行動が優しいこともあって、その度に柚月は混乱していた。
「それにさぁ、一緒に働いてる男の人らが、私を紹介して、って言ってるみたいで」
輝生が送ってきた写真を、柚月は翌日に見た。簡単に身長や年齢も書いてくれていたけれど、アパレル勤務なのもあってそれなりに格好良かったけれど、特に誰にもピンとこなかった。
『ふぅん。でもさぁ、その人らは、柚月が男の人とルームシェアしてるの、認めてるってことやろ? 良いんじゃないん?』
輝生を介しているのはつまり、そういうことになる。彼らもきっと輝生を店長として尊敬しているので、直幹のような思い込みはしていないはずだ。
「そうやけど、でもさぁ、気まずくない?」
柚月が彼らの誰かと付き合うことになったとしても、輝生にどう影響するのか、考えると難しくなってしまった。
「うまくいってもやし、喧嘩とかしてもややこしくなりそう」
『確かに……。柚月、会社には? いい人おらんの?』
「おらん……。おっても、社内恋愛したくないし。何のしがらみもない人が良いな」
『なるほど。分かった、またいつでも言って!』
「うん。ありがとう」
柚月は友人との電話を切って、一息ついてから部屋を出て、輝生がいるリビングへ行こうとして、階段の途中で足を止めてしまった。
「田﨑さんっ」
「……なに?」
「服、着てください」
「……ちょっと待て」
お風呂上がりの輝生がまた、上半身裸で洗面所から出てくるのが見えた。問題はないけれど目のやり場に困ってしまうし、そもそも恋人ではない男の裸を見たいとも思わない。
輝生がぶつぶつ言いながら服を着るのを確認してから、柚月はリビングへ行った。先に入っていた輝生は、ソファに座ってリラックスしていた。
「田﨑さん、あの」
「なに? ……また合コン失敗か?」
「違います」
そもそも柚月は最近は、合コンに行っていない。
「こないだの、店の男の人たち……考えたんですけど」
「おう? どうだった?」
輝生の言葉は元気があったけれど、表情は特にいつもと変化はない。
「やっぱり、無理です」
「──そうか。ちなみに理由は? どうせあいつら聞いてくるし」
「田﨑さんの、同僚だから」
「……それだけ?」
「はい」
輝生は少しだけ驚いたように目を見開いていた。そのままじっと柚月を見て、小さくため息をついた。
「顔が嫌とかはなかったのか?」
「ないです。むしろ、みんな格好良いと思います」
「……そうか。やっぱり俺か」
「田﨑さんは、悪くないんですけど」
輝生が悲しそうな顔をしかけたので、柚月は正直に言うことにした。
「どういうこと?」
「もし、誰かと付き合ったら、田﨑さんが困りそうな気がして。その人が〝今日はデート〟とか〝昨日はこんなことが〟とか、田﨑さんに聞かれたくないし」
「……俺も聞きたくないな」
「それに、喧嘩しても、私と暮らしてるからって、田﨑さんに八つ当たりされても迷惑になるし」
「それもそうだな」
だから輝生の同僚と付き合うつもりはない、と柚月ははっきり言った。輝生がどう思ったのかはわからないけれど、〝分かった、伝えておく〟と言ってテレビをつけたので柚月も部屋に戻った。
合コンに行く気にはならないけれど、恋人がほしくなくなったわけではない。夏休みに一緒に遊びに行きたかったし、秋にある柚月の誕生日にも一緒に過ごしたかった。冬のクリスマスも、バレンタインも、これまで直幹と過ごしてきたイベントが全て予定がなくなって、一人で過ごすのかと思うとものすごく寂しかった。
──だからといって輝生と過ごすのもいまいち気は進まないし、彼と付き合いたいとも思わなかった。輝生が格好良いのは認めるけれどそれは外見だけで、恋人として考えるとなんとなく微妙だった。
彼は相変わらず、柚月が嫌がることは一切してこない。お風呂上がりに上半身裸のことはよくあるけれど、どうしても嫌、というほどではない。
柚月が不調のときは家事を代わってくれるし、たまに相談にも乗ってくれる。年上で体格もずいぶん違うのもあって圧がすごいときもあるけれど、それが嫌だと思ったことはない。
「それ、向こうも普通になりすぎて気づいてないだけじゃない?」
「え?」
「好きを通り越してぇ、愛だったりして?」
「いやっ、それはないですよ! それに、そうだとしたら、言ってきてほしいです。でも、ほんまに、ないです」
友人や職場の同僚たちからは、何度もそう言われたけれど。
柚月は本当に、輝生とはルームシェア以外に何の関係もなかった。
学生時代の友人から、何度目かわからない合コンの誘いがきた。平日の夜、全ての用事を済ませてから部屋に戻ると、放置していたスマホに着信履歴があった。LINEにするか迷った末に、電話をかけ直した。
「うーん……しばらくいいかな……。ごめん、お願いしたのに」
『それは良いんやけど……どうかしたん? 元気ないやん?』
「そうかな……」
『あっ、合コン──うまくいってないから?』
気に入った相手がいても連絡を取っているうちにダメになってしまうことは、友人にも報告していた。最初の幹事がとても軽い男だったことも、輝生とのルームシェアが嫌がられることも、全て話していた。
「幹事のときは論外やったけど、そのあとはだいたいルームシェアの話で嫌がられてさぁ。私もそんな人、嫌やもんなぁ」
輝生との暮らしにはずいぶん慣れて、気になることもほとんどなくなった。同年代の女性とルームシェアしているよりは防犯面で安全な気がして、彼が高身長のおかげで頼めることもあって、時間があれば料理を教えてもらえることもあったので、どちらかというと柚月は快適に暮らせていた。
『柚月、その人のこと……好きなん?』
「えっ? ないない。それに、あっちもなに考えてんのか分からんこと多いし」
輝生も最初と比べるとずいぶん丸くなったけれど、何を考えているのか何も考えていないのか、分からないことは多い。冷たいことを言いながら行動が優しいこともあって、その度に柚月は混乱していた。
「それにさぁ、一緒に働いてる男の人らが、私を紹介して、って言ってるみたいで」
輝生が送ってきた写真を、柚月は翌日に見た。簡単に身長や年齢も書いてくれていたけれど、アパレル勤務なのもあってそれなりに格好良かったけれど、特に誰にもピンとこなかった。
『ふぅん。でもさぁ、その人らは、柚月が男の人とルームシェアしてるの、認めてるってことやろ? 良いんじゃないん?』
輝生を介しているのはつまり、そういうことになる。彼らもきっと輝生を店長として尊敬しているので、直幹のような思い込みはしていないはずだ。
「そうやけど、でもさぁ、気まずくない?」
柚月が彼らの誰かと付き合うことになったとしても、輝生にどう影響するのか、考えると難しくなってしまった。
「うまくいってもやし、喧嘩とかしてもややこしくなりそう」
『確かに……。柚月、会社には? いい人おらんの?』
「おらん……。おっても、社内恋愛したくないし。何のしがらみもない人が良いな」
『なるほど。分かった、またいつでも言って!』
「うん。ありがとう」
柚月は友人との電話を切って、一息ついてから部屋を出て、輝生がいるリビングへ行こうとして、階段の途中で足を止めてしまった。
「田﨑さんっ」
「……なに?」
「服、着てください」
「……ちょっと待て」
お風呂上がりの輝生がまた、上半身裸で洗面所から出てくるのが見えた。問題はないけれど目のやり場に困ってしまうし、そもそも恋人ではない男の裸を見たいとも思わない。
輝生がぶつぶつ言いながら服を着るのを確認してから、柚月はリビングへ行った。先に入っていた輝生は、ソファに座ってリラックスしていた。
「田﨑さん、あの」
「なに? ……また合コン失敗か?」
「違います」
そもそも柚月は最近は、合コンに行っていない。
「こないだの、店の男の人たち……考えたんですけど」
「おう? どうだった?」
輝生の言葉は元気があったけれど、表情は特にいつもと変化はない。
「やっぱり、無理です」
「──そうか。ちなみに理由は? どうせあいつら聞いてくるし」
「田﨑さんの、同僚だから」
「……それだけ?」
「はい」
輝生は少しだけ驚いたように目を見開いていた。そのままじっと柚月を見て、小さくため息をついた。
「顔が嫌とかはなかったのか?」
「ないです。むしろ、みんな格好良いと思います」
「……そうか。やっぱり俺か」
「田﨑さんは、悪くないんですけど」
輝生が悲しそうな顔をしかけたので、柚月は正直に言うことにした。
「どういうこと?」
「もし、誰かと付き合ったら、田﨑さんが困りそうな気がして。その人が〝今日はデート〟とか〝昨日はこんなことが〟とか、田﨑さんに聞かれたくないし」
「……俺も聞きたくないな」
「それに、喧嘩しても、私と暮らしてるからって、田﨑さんに八つ当たりされても迷惑になるし」
「それもそうだな」
だから輝生の同僚と付き合うつもりはない、と柚月ははっきり言った。輝生がどう思ったのかはわからないけれど、〝分かった、伝えておく〟と言ってテレビをつけたので柚月も部屋に戻った。
合コンに行く気にはならないけれど、恋人がほしくなくなったわけではない。夏休みに一緒に遊びに行きたかったし、秋にある柚月の誕生日にも一緒に過ごしたかった。冬のクリスマスも、バレンタインも、これまで直幹と過ごしてきたイベントが全て予定がなくなって、一人で過ごすのかと思うとものすごく寂しかった。
──だからといって輝生と過ごすのもいまいち気は進まないし、彼と付き合いたいとも思わなかった。輝生が格好良いのは認めるけれどそれは外見だけで、恋人として考えるとなんとなく微妙だった。
彼は相変わらず、柚月が嫌がることは一切してこない。お風呂上がりに上半身裸のことはよくあるけれど、どうしても嫌、というほどではない。
柚月が不調のときは家事を代わってくれるし、たまに相談にも乗ってくれる。年上で体格もずいぶん違うのもあって圧がすごいときもあるけれど、それが嫌だと思ったことはない。
「それ、向こうも普通になりすぎて気づいてないだけじゃない?」
「え?」
「好きを通り越してぇ、愛だったりして?」
「いやっ、それはないですよ! それに、そうだとしたら、言ってきてほしいです。でも、ほんまに、ないです」
友人や職場の同僚たちからは、何度もそう言われたけれど。
柚月は本当に、輝生とはルームシェア以外に何の関係もなかった。