冷遇され続けた聖女は、隣国で王太子付き侍女になって人生謳歌します
19.予兆
神像の祀られている祠は、町の中心に近い場所にあった。
埃や雑草もなくよく手入れされているのが分かった。花や作物など沢山お供えされているし、気にしていた加護も安定している。
「うん。これなら大丈夫」
ホッと柔らかな笑みを浮かべながら、神像を撫でた。
(……ん?)
目に留まったのは神像の首元。小さなヒビ割れが見える。
(こんなのあったっけ?)
木像なので湿気や気温で多少の変化はあるにしろ、簡単にヒビが入るような代物ではない。素人目線なのでなんとも言えないが……
(なんか不吉)
指で優しくヒビを撫でた。
「──え?」
私の力で元に戻るかもという安易な考えで触れてみたが、指がヒビに触れた瞬間、グラッと首が揺れ地面に落ちてしまった。
「ちょ、貴方何してるんです!?」
「ち、違う!ちょっと触れただけだって!首を折るなんて罰当たりな事しないって!」
慌てて取れた首を胴体に戻そうとするが、一度取れてしまったものを修復するのは難儀なこと。
「ボンド!いや、アロンアルフア!」
「それはなんです?」
「知らないの!?瞬間接着剤よ!」
「?」
焦りのあまり異世界だという事を忘れて現代科学が生み出した製品名を口走っていた。急に訳の分からない単語を出されたディルクは、怪訝な顔をしながら困惑している。
「どうしよう……」
でもなんで急に?質量過多?いや、そんなはずない。力の放出と受け入れる器は等量だった。ではなぜ……?
──ゾワッ
全身に悪寒が走った。
(は?なに?)
鼓動が痛いほどに早い。神経がざわついて気持ち悪い。聖女としての本能がヤバいと告げてる。
「どうしました?」
ディルクが心配して声をかけてくるが、相手をしている余裕はなかった。
(これは警告だったか……)
神像の首を握りしめながら、これから来るであろう災いに表情が険しくなる。
「ディルク様!急いでみんなに避難を呼びかけてください!」
「はい?」
「魔獣の群れが迫ってます」
****
一頭二頭の魔獣ならば結界が働いてくれるが、群れとなればその力量が足らなくなる。
この神像は信仰してくれた町の人達を助けるために自分の身を削って警告してくれたのだろうか……?
真相は分からないが、私を頼ったのだけは分かる。
「シャリー、本当に魔獣が?」
あの後、すぐにマティアスに経緯を伝え、町の人達をオリヴェルの屋敷へ避難させた。最初は町の人達も信じられないと避難するのを拒否していたが、女神からの言葉だと知った途端、スムーズに移動してくれた。
この時ばかりは女神と言う称号も悪くないと思えた。
「えぇ、確証はありませんが自信はあります」
「貴方ねぇ……」
呆れた言葉を吐くディルクだが、誘導は率先してやってくれた。混乱することなく移動できたのも、この人のおかげ。
「ディルク様、ありがとうございます」
「……貴方に感謝されることはしておりませんよ」
いつものように素っ気ない言葉を返してくる。でも、耳が赤く染まっているのは隠せていない。本当、素直じゃない。
「ふふっ」と小さく笑った。
「まあ、杞憂に終わればよし。むしろ、杞憂で終わって欲しいところだな」
「そうですね。こちらの勢力は騎士と王太子と側近というメンツですからね。なんとも頼りない……」
オリヴェルは面々を見ると、疲れた表情で溜息を吐いた。
当然、その中には私は入っていない。危ないから屋敷の中に居ろと言われたが、言い出したのは私だから結末は見届ける権利はあると、ゴリ押ししてやった。
屋敷の中にいたい気持ちもある。でも、神に頼られた以上、役目は果たすつもり。
「ちょっとお待ちなさい。貴方、殿下を前線に出すつもりですか?」
「当たり前でしょう?人員が足りないんですよ?もしかして、私一人で相手をしろと?」
「仮にも副団長でしょう?貴方の実力はその程度なんですか?」
「随分と騎士の事を分かったようなことを言いますが、騎士とて無敵じゃなんです。しかも相手は人ではなく魔獣だ。思考も行動も読めない分、人より苦戦するのは目に見えて分かるじゃないですか。殿下を出したくなければ、貴方が二人分の動きをすればよろしいのでは?もっとも、出来ればの話ですが」
「くッ!」
魔獣を相手にする前から睨み合ってる。
オリヴェルの言っていることも分かるが、ディルクの言う事も分かる。この場合、正解はどちらでもない。人を護るためには身分なんてものは関係ない。
──じゃあ、私は?
自分の身を護る為に聖女と言う事を未だに隠して護られている。
この三人なら大丈夫だと思うけど、もし……もしも、全滅してしまったら?命に関わる傷を負ってしまったら?その時、私はこの人達の前で力を使えるのだろうか……
キュッと唇を噛みしめた。
「ああ、どうやら最悪な方に舵が取られたようだな」
マティアスが何かに気付き、腰につけた剣に手を伸ばした。
「中々の数ですね。これは骨が折れそうです」
地面を揺らす足音が近づいてくる。数は分からないが、相当な数が向かってる。
「……先に言っておきますが、私は運動に耐久性がありません。短時間でカタを付けてください」
「おやまあ、あれだけ強気な事言っておいて燃費悪いんですか?」
「先に申告しただけマシでしょう」
「そうですね。足手纏いにだけはならないでくださいよ」
「──来るぞ」
マティアスの声を合図にカチャと剣を抜いた。
埃や雑草もなくよく手入れされているのが分かった。花や作物など沢山お供えされているし、気にしていた加護も安定している。
「うん。これなら大丈夫」
ホッと柔らかな笑みを浮かべながら、神像を撫でた。
(……ん?)
目に留まったのは神像の首元。小さなヒビ割れが見える。
(こんなのあったっけ?)
木像なので湿気や気温で多少の変化はあるにしろ、簡単にヒビが入るような代物ではない。素人目線なのでなんとも言えないが……
(なんか不吉)
指で優しくヒビを撫でた。
「──え?」
私の力で元に戻るかもという安易な考えで触れてみたが、指がヒビに触れた瞬間、グラッと首が揺れ地面に落ちてしまった。
「ちょ、貴方何してるんです!?」
「ち、違う!ちょっと触れただけだって!首を折るなんて罰当たりな事しないって!」
慌てて取れた首を胴体に戻そうとするが、一度取れてしまったものを修復するのは難儀なこと。
「ボンド!いや、アロンアルフア!」
「それはなんです?」
「知らないの!?瞬間接着剤よ!」
「?」
焦りのあまり異世界だという事を忘れて現代科学が生み出した製品名を口走っていた。急に訳の分からない単語を出されたディルクは、怪訝な顔をしながら困惑している。
「どうしよう……」
でもなんで急に?質量過多?いや、そんなはずない。力の放出と受け入れる器は等量だった。ではなぜ……?
──ゾワッ
全身に悪寒が走った。
(は?なに?)
鼓動が痛いほどに早い。神経がざわついて気持ち悪い。聖女としての本能がヤバいと告げてる。
「どうしました?」
ディルクが心配して声をかけてくるが、相手をしている余裕はなかった。
(これは警告だったか……)
神像の首を握りしめながら、これから来るであろう災いに表情が険しくなる。
「ディルク様!急いでみんなに避難を呼びかけてください!」
「はい?」
「魔獣の群れが迫ってます」
****
一頭二頭の魔獣ならば結界が働いてくれるが、群れとなればその力量が足らなくなる。
この神像は信仰してくれた町の人達を助けるために自分の身を削って警告してくれたのだろうか……?
真相は分からないが、私を頼ったのだけは分かる。
「シャリー、本当に魔獣が?」
あの後、すぐにマティアスに経緯を伝え、町の人達をオリヴェルの屋敷へ避難させた。最初は町の人達も信じられないと避難するのを拒否していたが、女神からの言葉だと知った途端、スムーズに移動してくれた。
この時ばかりは女神と言う称号も悪くないと思えた。
「えぇ、確証はありませんが自信はあります」
「貴方ねぇ……」
呆れた言葉を吐くディルクだが、誘導は率先してやってくれた。混乱することなく移動できたのも、この人のおかげ。
「ディルク様、ありがとうございます」
「……貴方に感謝されることはしておりませんよ」
いつものように素っ気ない言葉を返してくる。でも、耳が赤く染まっているのは隠せていない。本当、素直じゃない。
「ふふっ」と小さく笑った。
「まあ、杞憂に終わればよし。むしろ、杞憂で終わって欲しいところだな」
「そうですね。こちらの勢力は騎士と王太子と側近というメンツですからね。なんとも頼りない……」
オリヴェルは面々を見ると、疲れた表情で溜息を吐いた。
当然、その中には私は入っていない。危ないから屋敷の中に居ろと言われたが、言い出したのは私だから結末は見届ける権利はあると、ゴリ押ししてやった。
屋敷の中にいたい気持ちもある。でも、神に頼られた以上、役目は果たすつもり。
「ちょっとお待ちなさい。貴方、殿下を前線に出すつもりですか?」
「当たり前でしょう?人員が足りないんですよ?もしかして、私一人で相手をしろと?」
「仮にも副団長でしょう?貴方の実力はその程度なんですか?」
「随分と騎士の事を分かったようなことを言いますが、騎士とて無敵じゃなんです。しかも相手は人ではなく魔獣だ。思考も行動も読めない分、人より苦戦するのは目に見えて分かるじゃないですか。殿下を出したくなければ、貴方が二人分の動きをすればよろしいのでは?もっとも、出来ればの話ですが」
「くッ!」
魔獣を相手にする前から睨み合ってる。
オリヴェルの言っていることも分かるが、ディルクの言う事も分かる。この場合、正解はどちらでもない。人を護るためには身分なんてものは関係ない。
──じゃあ、私は?
自分の身を護る為に聖女と言う事を未だに隠して護られている。
この三人なら大丈夫だと思うけど、もし……もしも、全滅してしまったら?命に関わる傷を負ってしまったら?その時、私はこの人達の前で力を使えるのだろうか……
キュッと唇を噛みしめた。
「ああ、どうやら最悪な方に舵が取られたようだな」
マティアスが何かに気付き、腰につけた剣に手を伸ばした。
「中々の数ですね。これは骨が折れそうです」
地面を揺らす足音が近づいてくる。数は分からないが、相当な数が向かってる。
「……先に言っておきますが、私は運動に耐久性がありません。短時間でカタを付けてください」
「おやまあ、あれだけ強気な事言っておいて燃費悪いんですか?」
「先に申告しただけマシでしょう」
「そうですね。足手纏いにだけはならないでくださいよ」
「──来るぞ」
マティアスの声を合図にカチャと剣を抜いた。