【異世界恋愛*短編集】変わり者の令嬢はハッピーエンドをつかみ取る
 痛みに息を止めるマグダレーナを、見慣れたエリアスの取り巻きたちが憎々しげに取り囲んでいた。

「どうやってエリアス様を騙したの?」
「単なる政略結婚なんじゃない?」
「お可哀想なエリアス様。義理のご両親に逆らえず、こんな女と結婚しなくてはならないなんて」

 マグダレーナは無言で彼女たちを見つめる。
 ため息をつき、やれやれと肩をすくめた。

「……的外れな苦情なら後日にしてくれないか。生憎とわたしはとても急いでいるんだ」

「な……っ何よ、『壁のマンドラゴラ』のクセして!」

 手を振り上げる令嬢を、マグダレーナは鋭く見据える。

「バーンズ子爵家ご令嬢ッ!!」

「はっはいっ!?」

 腹の底から声を出せば、バーンズ子爵家令嬢と呼ばれた彼女が固まった。
 マグダレーナはビシッと彼女の鼻先に指を突きつける。

「あなたはエリアス様に夢中なあまり、あなたを愛おしく思う別の殿方の視線に全く気づいていない。それこそ可哀想だとは思わないのか?」

『えええッ!?』

 声をそろえて驚愕する令嬢たちを、マグダレーナはゆっくりと見回した。

「それからそちらの、フラー家ご令嬢。あなたもだ。あなたの従者の切ない片思いに、あなたはどうして少しも気づかない?」

「えッうそ!?」

 フラー家の令嬢が真っ赤になって頬を押さえる。
 おろおろと顔を見合わせる彼女たちに、マグダレーナはいかめしく頷きかけた。

「もっと周りをよく見ることだ。よければわたしがコツを伝授しよう。というわけで、次の夜会では共に壁に張りつかないか?」

「いや……それはちょっと」
「遠慮するけど」

 困ったみたいに身を引く彼女たちに、「では失敬」と颯爽と手を振って歩き出した。しかしすぐに背後から肩をつかまれる。

「ちょっと、待ちなさいよっ! わたくしは!? わたくしには何かないのっ!」

 マグダレーナは仕方なく振り返った。
 頬を上気させてマグダレーナを睨むご令嬢から、気まずく目を逸らす。

「……その、すまないモリスン家ご令嬢。あなたには、特にその、誰も……」

「なっ何よぉぉぉっ! 馬鹿にしてっ!」

 マグダレーナの灰色の髪を引っ張る令嬢の腕を、横合いから伸びてきた手がつかんだ。

「何をする! マグダレーナから離れろっ!」

「エ、エリアス様!?」

 悲鳴を上げる彼女たちに向かって、エリアスがすうっと目を細めた。いつもの優しい彼とは全く違う、その殺気立った目に彼女たちは震え上がる。

「エリアス様。わたしなら大事無い、心配しないでくれ」

 泣き出しそうな彼女たちをかばうように、マグダレーナが前に立った。
 怒りの炎を燃やすエリアスを、優しく叩いてなだめる。

「そんなことより、わたしと一緒に来てくれないか? 義姉が産気づいたんだ。初産だしきっと心細がっている。わたしが側についていてあげたい」

 エリアスが意外そうに瞬きした。
 素直に頷くと、当然のようにマグダレーナの手を取る。

「わかった。急ごう」

「ありがとう。……それでは君たちも、帰り道に気をつけて」

 まだ茫然としている令嬢たちに、マグダレーナは別れを告げた。
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