【異世界恋愛*短編集】変わり者の令嬢はハッピーエンドをつかみ取る
『毒りんご薬計画』は順調に進んだ。
施療院の医師たちは己を実験材料にして、日々研究を重ねていった。その甲斐あって、毒りんごの用法・用量もしっかりと明文化することができた。
「ご覧ください。本日旅立つ毒りんごたちです」
「可愛い我が子の出荷だな」
「せめてお嫁入りとおっしゃってくださいませ」
軽口を叩くランベルトに見送られ、今日もシャノンは施療院に向かうことにする。
ランベルトは王様業に忙しく、なかなか施療院に顔を出せない。それでも毎日欠かさず見送ってくれる彼に、シャノンは無表情ながら感謝していた。
「あのぉ……」
馬車に乗り込もうとした瞬間、背後からためらいがちに声を掛けられる。
物陰からひょっこり顔を覗かせたのは、十に満たないばかりの少年だった。エディ王子だ、とシャノンはすぐに気がつく。
「はじめまして。わたくしはシャノン・ヘイスターと申します」
「は、はじめまして……。エディ、です」
真っ赤になりながら、エディもぎくしゃくと挨拶を返した。そのままぽうっとなってシャノンを見上げる。
(すごく、綺麗なひと……)
シャノンはシャノンで、興味深くエディを観察していた。
あの堅物のランベルトが、この王子を溺愛しているのは知っていた。シャノンは今では毒りんごの納品に生きがいを感じ始めていて、このまま王都にとどまりたいと考えていた。
己がランベルトの側室になれるとは到底思えないが、毒りんご製造担当として王城に就職するのはどうだろう? 未来の王であるエディに気に入ってもらえれば、ランベルトに口添えを頼めるかもしれない。
シャノンはニィィ……と片方の口角を上げて笑う。
途端にエディがぱっと顔を明るくした。
「わあ。シャノン様は笑顔もとっても可愛らしいのですね!」
「まあ。わたくしなど、殿下の足元にも及びませんわ」
お世辞ではなく本心から、シャノンは熱を込めて言う。
エディの瞳はランベルトと同じ毒りんご色。出会ったばかりだというのに、シャノンは彼に親しみを感じ始めていた。
「わたしくはこれから施療院に、我が子たちをお嫁入りさせに行くのです。よろしければ殿下もご一緒にいかがですか?」
「我が子、たち? お嫁入り……? ああ、毒りんごの納品ですねっ。はい、喜んで!」
少しだけ考え込んだエディが、すぐに答えにたどり着く。利発な王子だ、とシャノンは感心した。
「では、共に参りましょう」
「はいっ」
◇
シャノンとエディは急速に親しくなった。
施療院の慰問も兼ねて、エディも毎回毒りんごの納品に付いていくようになった。明るく素直なエディは大人気で、患者だけでなく医師や看護師も大喜びだった。
エディの勉強の時間には逆にシャノンが付き添い、難しい問題はシャノンが噛み砕いて説明してやった。
シャノンののんびりした気質は人に教えるのに向いていて、エディはぐんぐん伸びていく。いつの間にやら、二人は四六時中一緒にいるようになった。
ランベルトは内心、それが面白くない。
「我が側室候補殿は、今日も俺を放って王子と逢引していたのか?」
夕食の席で(エディがねだるものだから、最近ではシャノンも毎日食事を共にしている)、ランベルトは皮肉な笑みを彼女に向ける。
シャノンはつつましく口元をナフキンでぬぐうと、あっさり頷いた。
「はい。エディ殿下と共にあることは、わたくしの喜びであり楽しみでもあるのです」
「だ、だめですよシャノン姉さまっ」
エディが慌てたようにシャノンをいさめる。
いつの間にシャノン「姉さま」になったのか。ランベルトにはこれも面白くない。
大人げなくむくれるランベルトをよそに、エディはしかつめらしくシャノンに言い聞かせる。
「よろしいですか、姉さまは叔父上の大切なひとなのですよ? 間違っても叔父上の前で、僕を優先してはなりません。叔父上がヤキモチを焼いてしまうでしょ?」
「んな……っ!」
「叔父上。男らしく素直になってください」
エディが片方の口角だけを上げ、ニィィと笑う。いつの間に、いつの間にこいつらは同じ笑い方をするようになったのだ!
ランベルトが言い返すより早く、シャノンが生真面目に頭を下げる。
「ランベルト陛下がわたくしを想うことなどあり得ませんが、確かに殿下のおっしゃる通りでしたね。陛下の前で他の殿方を優先するなど、側室候補としての自覚に欠ける振る舞いでございました。申し訳ございません」
こうも丁寧に謝罪されてしまっては、いつまでも一人で怒っているわけにはいかない。
ランベルトは唇をひん曲げたまま、「ふん。わかったなら今後はもう少し俺にも構うように」と不機嫌に付け足した。言った瞬間、言葉選びを間違えた気がした。
「いやっ、ではなくて!」
「承知いたしました。お任せくださいませ」
シャノンが力強く請け負って、ニィィと笑う。
いつもの悪人面なはずなのに、なぜか赤くなってしまうランベルトであった。
施療院の医師たちは己を実験材料にして、日々研究を重ねていった。その甲斐あって、毒りんごの用法・用量もしっかりと明文化することができた。
「ご覧ください。本日旅立つ毒りんごたちです」
「可愛い我が子の出荷だな」
「せめてお嫁入りとおっしゃってくださいませ」
軽口を叩くランベルトに見送られ、今日もシャノンは施療院に向かうことにする。
ランベルトは王様業に忙しく、なかなか施療院に顔を出せない。それでも毎日欠かさず見送ってくれる彼に、シャノンは無表情ながら感謝していた。
「あのぉ……」
馬車に乗り込もうとした瞬間、背後からためらいがちに声を掛けられる。
物陰からひょっこり顔を覗かせたのは、十に満たないばかりの少年だった。エディ王子だ、とシャノンはすぐに気がつく。
「はじめまして。わたくしはシャノン・ヘイスターと申します」
「は、はじめまして……。エディ、です」
真っ赤になりながら、エディもぎくしゃくと挨拶を返した。そのままぽうっとなってシャノンを見上げる。
(すごく、綺麗なひと……)
シャノンはシャノンで、興味深くエディを観察していた。
あの堅物のランベルトが、この王子を溺愛しているのは知っていた。シャノンは今では毒りんごの納品に生きがいを感じ始めていて、このまま王都にとどまりたいと考えていた。
己がランベルトの側室になれるとは到底思えないが、毒りんご製造担当として王城に就職するのはどうだろう? 未来の王であるエディに気に入ってもらえれば、ランベルトに口添えを頼めるかもしれない。
シャノンはニィィ……と片方の口角を上げて笑う。
途端にエディがぱっと顔を明るくした。
「わあ。シャノン様は笑顔もとっても可愛らしいのですね!」
「まあ。わたくしなど、殿下の足元にも及びませんわ」
お世辞ではなく本心から、シャノンは熱を込めて言う。
エディの瞳はランベルトと同じ毒りんご色。出会ったばかりだというのに、シャノンは彼に親しみを感じ始めていた。
「わたしくはこれから施療院に、我が子たちをお嫁入りさせに行くのです。よろしければ殿下もご一緒にいかがですか?」
「我が子、たち? お嫁入り……? ああ、毒りんごの納品ですねっ。はい、喜んで!」
少しだけ考え込んだエディが、すぐに答えにたどり着く。利発な王子だ、とシャノンは感心した。
「では、共に参りましょう」
「はいっ」
◇
シャノンとエディは急速に親しくなった。
施療院の慰問も兼ねて、エディも毎回毒りんごの納品に付いていくようになった。明るく素直なエディは大人気で、患者だけでなく医師や看護師も大喜びだった。
エディの勉強の時間には逆にシャノンが付き添い、難しい問題はシャノンが噛み砕いて説明してやった。
シャノンののんびりした気質は人に教えるのに向いていて、エディはぐんぐん伸びていく。いつの間にやら、二人は四六時中一緒にいるようになった。
ランベルトは内心、それが面白くない。
「我が側室候補殿は、今日も俺を放って王子と逢引していたのか?」
夕食の席で(エディがねだるものだから、最近ではシャノンも毎日食事を共にしている)、ランベルトは皮肉な笑みを彼女に向ける。
シャノンはつつましく口元をナフキンでぬぐうと、あっさり頷いた。
「はい。エディ殿下と共にあることは、わたくしの喜びであり楽しみでもあるのです」
「だ、だめですよシャノン姉さまっ」
エディが慌てたようにシャノンをいさめる。
いつの間にシャノン「姉さま」になったのか。ランベルトにはこれも面白くない。
大人げなくむくれるランベルトをよそに、エディはしかつめらしくシャノンに言い聞かせる。
「よろしいですか、姉さまは叔父上の大切なひとなのですよ? 間違っても叔父上の前で、僕を優先してはなりません。叔父上がヤキモチを焼いてしまうでしょ?」
「んな……っ!」
「叔父上。男らしく素直になってください」
エディが片方の口角だけを上げ、ニィィと笑う。いつの間に、いつの間にこいつらは同じ笑い方をするようになったのだ!
ランベルトが言い返すより早く、シャノンが生真面目に頭を下げる。
「ランベルト陛下がわたくしを想うことなどあり得ませんが、確かに殿下のおっしゃる通りでしたね。陛下の前で他の殿方を優先するなど、側室候補としての自覚に欠ける振る舞いでございました。申し訳ございません」
こうも丁寧に謝罪されてしまっては、いつまでも一人で怒っているわけにはいかない。
ランベルトは唇をひん曲げたまま、「ふん。わかったなら今後はもう少し俺にも構うように」と不機嫌に付け足した。言った瞬間、言葉選びを間違えた気がした。
「いやっ、ではなくて!」
「承知いたしました。お任せくださいませ」
シャノンが力強く請け負って、ニィィと笑う。
いつもの悪人面なはずなのに、なぜか赤くなってしまうランベルトであった。