指先で君を覚えている

触れた言葉は、声より先に心に届く


如月るみは、高校の福祉科に通う高校3年生。
手話と点字を学びながら、誰かの「届かない」を減らすことを目標にしていた。

秋の日。
学校の活動で作った点訳絵本を、市の点字図書館へ寄贈することになる。

その日、図書館に偶然訪れていた少年がいた。

小鳥遊そら。

生まれつき視力が弱く、やがてほとんど見えなくなった彼は、音の世界で生きていた。
歌うことが好きで、声だけは誰よりも自由だった。

るみは、その場所で彼と出会う。

「この絵本、触るとあったかいですね」

そらのその一言が、最初の会話だった。

点字を指でなぞりながら、彼は静かに微笑んでいた。

るみはその横顔を見て、なぜか目を離せなくなる。



それから二人は、少しずつ関わるようになる。

るみは点字で手紙を書くようになる。
そらはその手紙を指で読みながら、返事の代わりに歌を送る。

声で、気持ちを伝える彼と、
文字で、世界を届ける彼女。



ある日、るみは気づく。

「この人に、ちゃんと“好き”を伝えたい」

けれど彼は、いつかすべてを失う可能性がある視力の中で生きている。

だから彼女は決める。

最後の手紙を、点字で書くことを。
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