四つ葉の栞

四つ葉と出会い

春の風が、校舎の窓をやさしく揺らしていた。

中学二年生になったばかりの富田美紗樹は、昼休みになると決まって図書室へ向かう。

本を読む時間だけは、周りのことを忘れられるから。

「こんにちは。」

扉を開けると、カウンターの向こうから穏やかな声が聞こえた。

「こんにちは。」

美紗樹も小さく返事をする。

その声の主は、図書委員の三年生、川﨑蒼だった。

学年が違うから話したことはほとんどない。

ただ、本を借りるたびに「ありがとう」と笑ってくれる先輩。

その笑顔が少しだけ気になっていた。

「今日は何を借りるの?」

「恋愛小説、探してます。」

「じゃあ、この本はどう?」

蒼は一冊の文庫本を差し出した。

「最後がすごく好きなんだ。」

美紗樹はその言葉につられるように本を受け取った。

「ありがとうございます。」

「読み終わったら感想、聞かせて。」

そう言って蒼は優しく笑った。

その笑顔が、少しだけ胸に残った。

その日の夜。

ベッドの上で本を開くと、一枚のしおりがページの間からひらりと落ちた。

押し花ではない。

丁寧にラミネートされた、小さな四つ葉のクローバーだった。

裏返すと、きれいな文字で一言だけ書かれていた。

『この本を読んだ人が、今日少しだけ笑えますように。』

美紗樹は思わず笑みをこぼす。

「……誰が書いたんだろう。」

返却するとき、このしおりも返そう。

そう思ったはずなのに、その一言がどうしても忘れられなかった。

そのときはまだ知らない。

この四つ葉のしおりが、一つの恋の始まりになることを。
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