四つ葉の栞

すれ違う想い

聾学校へ転校して半年が過ぎた。

美紗樹は日本手話にも少しずつ慣れ、新しい友達に囲まれながら学校生活を送っていた。

ある日の放課後。

校舎裏へ呼び出される。

待っていたのは、同じ学年の男子生徒だった。

緊張した表情で、美紗樹を見つめる。

手話で、ゆっくりと想いを伝えた。

『ずっと好きでした。

よかったら、付き合ってください。』

突然の告白だった。

美紗樹の頭に浮かんだのは、蒼の笑顔だった。

「ごめんなさい。」

そう伝えようと思った。

でも、目の前の彼の真剣な表情を見ていると、言葉が出てこない。

傷つけたくない。

その気持ちだけが先に立ってしまった。

小さくうなずく。

『……よろしくお願いします。』

その瞬間、美紗樹の胸は少しも弾まなかった。

数日後。

久しぶりに本屋を訪れる。

蒼はいつものように笑顔で迎えようとした。

そのとき、美紗樹のスマートフォンに通知が届く。

『今日はありがとう。また明日。』

送り主の名前と、二人で撮った写真が画面に映る。

蒼は偶然、それを目にしてしまった。

「彼氏……できたんだ。」

胸が締めつけられる。

ずっと伝えられなかった想い。

もう伝える資格はない。

美紗樹が幸せなら、それでいい。

そう自分に言い聞かせた。

「富田さん、この本、おすすめだよ。」

いつもと変わらない笑顔。

でも、その笑顔の奥には、少しだけ寂しさが隠れていた。

それから蒼は、自分から話しかけることを少しずつやめた。

おすすめの本も、以前ほど勧めなくなった。

美紗樹はその変化に気づく。

「先輩……どうしたんだろう。」

理由は分からない。

蒼もまた、美紗樹の幸せを願うほど、自分から距離を置いていた。

お互いを想う気持ちは変わらない。

それなのに、その想いはまた一歩、遠ざかってしまった。
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