四つ葉の栞

一輪の薔薇

それから数日後。

美紗樹は久しぶりに一人で本屋を訪れた。

店内に入ると、蒼はいつものように優しく微笑んだ。

「こんにちは。」

美紗樹も笑顔でうなずく。

ぎこちない手話と、少しの声。

もうそれだけで十分だった。

「この本、富田さんに読んでほしい。」

蒼は一冊の小説を差し出した。

「ありがとうございます。」

美紗樹は本を大切に抱え、家へ帰った。

机に座り、ゆっくりと表紙を開く。

すると、一枚のしおりが落ちた。

いつもの四つ葉ではない。

白いしおりの隅に、小さく一輪の薔薇が描かれていた。

蒼らしい、丁寧な手描きの絵。

「きれい……。」

何気なく裏返す。

そこには、何も書かれていなかった。

美紗樹は不思議に思い、スマートフォンで薔薇の花言葉を調べる。

『一輪の薔薇
花言葉――あなたしかいない。』

その文字を見た瞬間、美紗樹の手が震えた。

「……先輩。」

何度も、何度も見返す。

見間違いじゃない。

偶然でもない。

あの日からずっと伝えられなかった想いが、一輪の薔薇に込められていた。

美紗樹の目から涙があふれる。

「私も……。」

その言葉は誰にも届かない。

でも、胸の奥では何度も繰り返していた。

「先輩しか、いません。」

本を抱きしめる。

四つ葉のしおりから始まった二人の物語は、一輪の薔薇へと変わっていた。

言葉では伝えられなかった想いが、花言葉になって、ようやく美紗樹の心へ届いた。
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