お見合いの失敗理由は妹が美し過ぎたせい。

6.大臣side

「……逃げた?」
「はい」
「…………皇后陛下が?」
「はい」

 聞いた時は自分の耳がおかしくなったのかと思った。
 そうだろう!?
 どこの世界に、皇后が、それも一国の王女が勉強を嫌って教師から逃げ出すと考える?

「わたくしたちは何度も皇后陛下を諫めました。ですが、皇后陛下はまったく聞く耳を持ってくださいません」
「……それを何とかするのが貴女方の務めでは?」
「確かにその通りです。ですが、人の言葉を介さない()()()()を調教することは仕事内容に含まれておりません。わたくしたちの仕事は、あくまでも()()の教育です。人以下の生き物は論外でございます」
「心配しなくてもいい。皇后陛下は()()だ」
「人の形をしたナニカの間違いではありませんか?」
「たとえそうだとしても、人型である以上は人間と位置づけられる。よって、貴女方には職務をまっとうしていただきたい」

 教育係たちは揃いも揃って名流婦人。
 彼女たちは扇で口元を隠すと「畏まりました」と承諾してくれた。だが、その目は冷ややかであり獰猛であった。背筋が凍る思いをしたのは久方ぶりだ。怒っているのだろう。不本意だと雰囲気からも察したが、ここは見なかったフリをするしかない。
 これも全て帝国のため。
 ……言い訳になるかもしれないが、この時の私はまだユリア皇后を甘くみていた。
 皇后のやる気のなさはひとまず置いとくとして、とりあえず逃亡癖さえ直してくれれば良いと思っていたのだ。
 だが甘かった。
 彼女は想像の斜め上をいった。
 そもそもユリア皇后は『学ぶ』という習慣がなかった。
 いや、集中力が続かないと言った方が正しいのかもしれない。
 とにかく、皇后は座学を嫌った。

「何故、歴史の勉強などしなければならないの? そんなものは今を生きている私たちには関係ないでしょう?」
「皇后陛下、それは違います。過去を学ぶことは決して無駄な事ではありません。過去の過ちを繰り返してはならないからこそ、我々は歴史を学び教訓とするのです」
「それなら、その国に直接行けばいいわ。その方が直で聞けて分かりやすいもの」

 思わず頭を抱えたくなる返答だ。
 何を言っているんだこの皇后は。
 要は、実地で学ぶと言っているのと同じ。
 歴史を学ぶためだけに、その国に行くと?
 ありえないだろう。呆れを通り越して感心すら覚えてしまった。
 
「あぁ……やっと休憩になったのね! 私はフランツのもとにいくわ!」
「おやめください」
「なぜ?」
「皇帝陛下はただいま執務中でございます」
「またなの?」
「それが皇帝陛下のお仕事なのです」
「……」
「お仕事の邪魔をなさってはなりません」
「……」
「よろしいですね、皇后陛下」

 ユリア皇后は無言のまま部屋を立ち去っていく。
 無言なのは、まあ良しとしよう。あまり良くはないが……。ただ、問題は子供のように頬を膨らませていたことだ。
 子供か? 
 まったく。
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