あなたのほくろには、沼りません!
いつもよりずっと近いところに、崇人の顔が現れる。澄花の弱点である泣きぼくろも、息が届くほど近いところにある。
「なっ……」
自分の感情とは別に、澄花の頬が勝手に熱を持つ。
「やっぱり弱いんだ、俺の素顔に」
崇人は笑った。会社でいつも見せる顔とは違い、色気が滲み出ている。
「メガネを外した時のギャップ萌えかな。それとも、泣きぼくろの……」
「あっ……」
思わず澄花の喉奥から漏れた声に、崇人は低く笑った。
「……ははっ。泣きぼくろかぁ。今、ガン見しているもんね、高梨さん」
囁くように呟く崇人に、澄花は口をパクパクさせるのが精一杯だ。
体温がどんどん上がっていく。崇人に聞こえるのじゃないか、というくらい、心臓の音がうるさい。
喋らないといけないのに。いや、それ以上に会社の駐車場で何をしているんだ。誰かに見られると、あらぬ噂を立てられてしまう。
話をする前に、ここから脱出しないといけない。なのに澄花は、崇人の目尻にある黒い点に捕らわれてしまっていた。
「高梨さんから見たら俺は、反省なんかしない男に見えるんだ」
自虐するような崇人の言葉に、澄花ははじかれたように体を動かした。
と、その拍子に、唇同士が掠めた。
まさしく、漫画のような出来事。だが、澄花にとっては特別な意味を持っていた。
まだリアル世界で彼氏を作る前。二次元の彼に恋をしていた頃、何度も繰り返し妄想したシチュエーションが、我が身に起こっている。
唇を押しつけたのは、無意識だった。
温かくて柔らかいそれが、崇人の唇と自覚した瞬間。
「……っつ! す、すみませっ!」
澄花は勢いよく体を引いた。
ゴンッと、後頭部を運転席のヘッド部分に激しくぶつけたけれど、痛みは感じない。それ以上に、付き合ってもいない人様の唇に触れてしまった、という事実に激しく動揺していた。
「いいよ、減るもんでもないし」
「へ、減るもの……」
「あ、もしかしてファーストキスだった?」
「ち、違います!」
強く否定する澄花に、崇人はクスッと笑った。
「じゃあ気にしないで。事故みたいなものだよ」