Ironic Honey
 翌日の金曜日、千織は会社まで迎えに来てくれた。

 見慣れた車に歩いて向かうと、彼はいつも通り降りてきて、私のために車のドアを開けてくれる。そしてそれは、会社の前だと少し目立っていて、女性社員が私を羨ましそうに見ていた。

 羞恥心が沸き上がり、急いで乗り込むと、千織はゆっくりとドアを閉め、運転手席へ乗り込んだ。


「やっぱり、会社の前はやめましょう。目立つわ」

「構わない。将来の旦那ですってアピール出来るだろ」

「何真顔で馬鹿なこと言ってんのよ。私の方が構うのよ」


 千織の発言に溜息を吐き、前を見る。この辺はオフィス街だから、スーツを着た人が多数通る。私が勤務する会社の人間もちらほらと。

 だけどその人達はこちらには気付かず、スマートフォンを見ながら俯いて歩いていたり、真っ直ぐ駅に向かって歩いていたり、楽しそうに並びながら笑って歩いている人達もいる。

 私もあの中に入っているはずなのに、今は千織が迎えに来てくれて、傍から見ているだけだった。

 すぐに追い越すと、私はその人々の姿を目で追わなくなり、今度は信号に目を移す。


「退屈か? 流行りの曲でもかけるか?」

「こんなオシャレな高級車でJ-POPなんて流されても困るわよ。アンマッチでしょ」

「確かにな」


 そう笑う千織に、私は軽く笑う。
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