ねえ、はやく降参してよ。 ――同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。
少しだけ見開かれた瞳を捉えたまま、指先で頬をなぞる。
「『染みも皺も慈しむよ』」
「…………」
「『忘れてもいい。僕が覚えてる』」
「…………」
「『ただ』……」
――『僕を置いて、先に旅立たないで』
脳裏に、義父の背中がよぎる。
「『ただ』?」
見つめたまま黙っていると、続きを促されたけれど。
教えなくていいと、思った。