伯父の命により、高潔すぎて『聖人』と噂の男の元へ行く事になりました。
第一章 風は吹き荒れ水は暗く沈む
0.花綻ぶ
山に大きく鳴り響く銅鑼の音。
年に一度だけ行われる慣行に、今年ようやく来る事が許された。
そこはまるでお祭りのような賑やかさだ。静かな馬車の中ではより一層外のざわめきを強く感じて、そわそわとしてしまって落ち着かない。
銅鑼の音の後の聞こえてきた観衆たちのどよめきに、好奇心をくすぐられて、少しだけ窓を開けて外をのぞき見る。
──……勝ったのはどこかしら?
視界に入ったのは、数え切れない程の並べられた、花びらを形取った鏡たち。そしてそれらの中心に、飛び抜けて大きな花鏡がある。
どの花鏡にも何かが映っているのだが、花鏡が映すのは目の前のものではく、ここではない場所だ。
──どうやら今年もうちが勝ったようね。まぁ、うちには兄様がいるもの。
大花鏡が映している黒衣を着た無表情男に、うんうんと首を振って納得する。
──終わったのならそろそろ……。
花鏡群から目線を横へと移し、深い霧に包まれた一帯を見る。
その先には山の奥へと続く道があるが、それを隠すよう深い霧がかかっていた。しかしそれも徐々に薄くなっていき、ゆらゆらと動く影のようなものが見えてくる。
そして霧が完全には晴れきらぬ内に、人がぞろぞろと出てきた。
赤、黄、白。何とも目に映える色合いだ。
着ている衣の色は家門色を表していて、誰がどこの家門か一目瞭然だ。
赤衣の一行は勇ましい足取り。
黄衣の一行は歩きに気品を感じさせる。
そして白衣の一行は優雅に歩いてきた。
歩き方にまでそれぞれ一門の雰囲気が色濃く出ていた。
黒衣の一行が出てるのを待つ中、続いて見えた色は青だった。
青衣が一人、二人と静かやかに現れて、その列から少し遅れ、最後に現れた男に黄色い声が上がった。
「きゃー、蒼家の若君よー!」
「山狩りの後なのに凛々しいわ」
「剣を振る姿も美しかったわ~」
この場にいる女たちはみんなうっとりとした顔で若君とやらを見ていた。
──へぇ~あれが噂の……すごい人気ね。まぁ確かに綺麗な人だけど……噂通りならあの人…⋯。
「あの、梓娟様、そろそろ窓を……」
振り返れば側仕えの女が眉を八の字にさててこちらを見つめていた。その目は窓を閉めろと訴えかけている。
「分かってるわ」
栄光を手にした家門が知りたかっただけでその目的を果たしている。
仕方ないわね、と呟きながら窓へと手を伸ばす。
「今閉め──ん?」
外から流れ込んできた風が髪を優しく揺らした。
その風に呼ばれたような気がして再び外へと顔を向ければ、件の若君が顔を見上げており、ふっと笑みを浮かべた。
「っ~~!!」
思わず窓を閉めてしまった。
「梓娟様?」
あまりにも勢い良く閉めてしまったので侍女は驚いているが今は気にする余裕はなかった。
──何っ、何なの!?あの笑顔!?
あれは目が眩む程に眩く、花が綻ぶような柔らかな微笑みだった。
胸がどきどきと激しく高鳴って、暫く収まることはなかった──。
年に一度だけ行われる慣行に、今年ようやく来る事が許された。
そこはまるでお祭りのような賑やかさだ。静かな馬車の中ではより一層外のざわめきを強く感じて、そわそわとしてしまって落ち着かない。
銅鑼の音の後の聞こえてきた観衆たちのどよめきに、好奇心をくすぐられて、少しだけ窓を開けて外をのぞき見る。
──……勝ったのはどこかしら?
視界に入ったのは、数え切れない程の並べられた、花びらを形取った鏡たち。そしてそれらの中心に、飛び抜けて大きな花鏡がある。
どの花鏡にも何かが映っているのだが、花鏡が映すのは目の前のものではく、ここではない場所だ。
──どうやら今年もうちが勝ったようね。まぁ、うちには兄様がいるもの。
大花鏡が映している黒衣を着た無表情男に、うんうんと首を振って納得する。
──終わったのならそろそろ……。
花鏡群から目線を横へと移し、深い霧に包まれた一帯を見る。
その先には山の奥へと続く道があるが、それを隠すよう深い霧がかかっていた。しかしそれも徐々に薄くなっていき、ゆらゆらと動く影のようなものが見えてくる。
そして霧が完全には晴れきらぬ内に、人がぞろぞろと出てきた。
赤、黄、白。何とも目に映える色合いだ。
着ている衣の色は家門色を表していて、誰がどこの家門か一目瞭然だ。
赤衣の一行は勇ましい足取り。
黄衣の一行は歩きに気品を感じさせる。
そして白衣の一行は優雅に歩いてきた。
歩き方にまでそれぞれ一門の雰囲気が色濃く出ていた。
黒衣の一行が出てるのを待つ中、続いて見えた色は青だった。
青衣が一人、二人と静かやかに現れて、その列から少し遅れ、最後に現れた男に黄色い声が上がった。
「きゃー、蒼家の若君よー!」
「山狩りの後なのに凛々しいわ」
「剣を振る姿も美しかったわ~」
この場にいる女たちはみんなうっとりとした顔で若君とやらを見ていた。
──へぇ~あれが噂の……すごい人気ね。まぁ確かに綺麗な人だけど……噂通りならあの人…⋯。
「あの、梓娟様、そろそろ窓を……」
振り返れば側仕えの女が眉を八の字にさててこちらを見つめていた。その目は窓を閉めろと訴えかけている。
「分かってるわ」
栄光を手にした家門が知りたかっただけでその目的を果たしている。
仕方ないわね、と呟きながら窓へと手を伸ばす。
「今閉め──ん?」
外から流れ込んできた風が髪を優しく揺らした。
その風に呼ばれたような気がして再び外へと顔を向ければ、件の若君が顔を見上げており、ふっと笑みを浮かべた。
「っ~~!!」
思わず窓を閉めてしまった。
「梓娟様?」
あまりにも勢い良く閉めてしまったので侍女は驚いているが今は気にする余裕はなかった。
──何っ、何なの!?あの笑顔!?
あれは目が眩む程に眩く、花が綻ぶような柔らかな微笑みだった。
胸がどきどきと激しく高鳴って、暫く収まることはなかった──。
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