蛙のマス
蛍のほたろうは何でも知っている。カマスが飛んだらしい、その情報もテレパシーで受け取っていた。
だけど、マスには伝えなかった。それはどうしてか。濁流の中にいるマスにそれを今、伝えることは、マスを不安にさせるだけだったからだ。貴重な情報でも、全て思い付くままに伝えればいい、というわけではないと、知っていたからだ。マスは激しい川の流れの勢いに飲み込まれそうになった。その時、間一髪で、マスが小さな体で掴まった大きな岩は、生きている生き物だった。こんなことがあるのだろうか。ただの物質でしかないと思えていた大きな岩が実は僕と同じように生きている生き物だったなんて。全てに諦めそうになっていたマスにとって、それは助けとなった。この大きな岩は粘着性を持ち、捕まったマスを激しい雨や、川の流れから、救ってくれるものだった。生き物同士ならば、会話ができる、小さな蛙のマスはそう思った。
「こんにちは、岩さん。助けてくれてありがとう」
大きな岩は静かに口を開く。
「いいや、僕も退屈してたところなんだ。これから海の方に行くつもりだよ。ついてくるかい」
蛍は安心した表情で、蛙のマスに微笑みかける。
後ろから、カマスがやってくる。さすが、あの大きな体格で、持ち前の運動神経と、仕事で鍛えた底力があるから、この激しい大雨のなかを一人で切り抜ける体力はある。
「まてぇーマス~。俺もこの日をいつか、待ちわびてたんだよ~」
カマスは大きな声でマスに怒号を飛ばす。
「お前だけ、抜け出そうたって、俺は許さないからな~~ふざけるな、ちくしょう~」
それから声にならない声でひたすらカマスは怒鳴っていた。
小さな体のマスは怯えて、大きな岩に掴まりながらも、ぶるぶる震えていた。マスは声を何も発することさえも出来なくなっていた。
「しっかり、掴まれおちびさんよ。そして、友達の蛍くんよ」
「私、女よ!そして、名前は、ほたろう!」
「そうかい、ごめんよ」
そして、激しい濁流のなか、マスとほたろうと、たいせっきの三人は海の向こうへと旅立った。

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