初恋を拗らせたホテル御曹司は癒やしの女医にだけ激愛本能を滾らせる
「……わかってるんだけどね。今は、仕事のことで手一杯かな。専門医試験まで二年もないし」
「専門医にならなくても問題ないんだし、そこまで拘らなくてもいい気もするけど……。院長に憧れて医師になった遥奈の夢だもんね。全力で応援するから頑張って」
確かに、心療内科専門医でなくとも、心療内科で研鑽を積み、臨床を行っている内科医であれば心療内科医を名乗っても問題ない。だが、患者一人ひとりの心に寄り添うため日夜研鑽に励む院長を尊敬し目標としてきた遥奈にとって、院長と同じ心療内科専門医になるのが子どもの頃からの夢だった。
嘘ではないが事実とは少し違う。
本当は、中学生の頃、校内で行われた弁論大会で、二年先輩だった零が読み上げた弁論文がきっかけだった。
内容は、『心身症』について語られていたっけ……
ふいに当時の記憶と淡い恋心まで想起しそうになって、遥奈は慌てて打ち消した。
――余計なことは考えない。今は恋なんかに現を抜かしている暇なんてないんだから!
むろん、遥奈にとって、恋は忌避したいものでしかないので、好都合である。
「うん、ありがとう」
「まぁ、無理強いはしないけどさ、気が変わったら言いなさいよね。遥奈に相応しいイイ男紹介してあげるから」
あれこれ言いつつも、最後にはこうして遥奈の気持ちを尊重してくれる。
「えっ、それはヤダ」
「ちょっと、『ヤダ』って何よッ! 即答だし」
気心の知れた京香のお陰で暗い雰囲気にならずにすんだ。
二人でわいわい騒いでいると休憩室に受付クラークの倉科が顔を覗かせた。