エロスの奴隷
私は悶々としている。悶々というのは悩み悶えることである。私は幼い頃に見たポルノビデオの情景が忘れられずにいた。あの日、見た夕空の暮れるあとで、大急ぎで自転車を駐輪場に止めて、ダッシュで階段を登り、鍵を大急ぎで開けて、脱衣所で手を大急ぎで洗って、女を口説くおじさんの口臭のような、それを握って、ニルアドミラリ。灰色のコードが伸びるマウスに左手、ウェットティッシュを右側の地面に置いて、とにかく仕事を済ませたかったあの夕焼けの真下で行われた禁じられる大遊戯は、とても好感触で、楽しくてたまらない、夢中になれば、時間は忘れるし、驚異的な集中力で、目前に置かれた最高のデザートショーを、楽しんで、散らばる夢を抱いて、たまに目の前で熱情まとう男の後ろ姿に嫉妬なんかしたりして、恥ずかしながら、緊張感のある、夢みたいな光景を鑑賞していたのであります。だから、そのままで、恥ずかしい思いを、誰にもバレないよう、そっと胸に、そう胸に、秘密の思いを垂れ流して、もう一度、手を入念に洗ったのであります。やり過ぎると、頭がハイになってやられちゃう。だから真似しないでね。と言うと警察にマークされちゃう気がして、後ろを振り向くと誰もいない。あくまでも健全な青少年の烙印を、このことを地域の青少年を保護する、団体の職員、とても優しい職員の方に、正直に話すと、笑って、快く受け入れてくれたのであります。私は、狂っているのでしょうか。神様、いるとしたら答えてください。神様、いるとしたら僕を赦してください。なんて、つい口走ってしまうのも無理はないのでしょうか。だって、恥ずかしいことを話すと、本当に許してくれるのか、不安になっちゃうのが人の性でしょう。あなただってそうでしょうが。正直に自分がやっていることなんて、一から百までペラペラと話してしまえば、もう許されるのかどうか、わからなくなっちゃって、もう本当のことは一切言えなくなっちゃうでしょうが。だけども私はもう、吹っ切れました。救いなどないのです。あんまりに血管がぶち上がってしまっている。落ち着こう、落ち着こう。本題とそれるのは、私の性なのか、それとも自然の成り行きなのか。いつももっと落ち着いて話せるかと思えば、全然そんなことはなくて、ついつい話しすぎてしまったり、話しすぎたかと思えば、実のところ全然そんなことはなくて、ただただ、つまらないものを差し出して、差し出したことに後悔していることをあなた方に話したところで、その話しすぎた事柄が一体なんなのかさえ、あなた方には理解されない程の賞味のはなし、賞味期限切れの納豆みたいな、そんないつの間に、なんて思っちゃう程の気にかけなさで、そんなところで、少しクールダウン。
落ち着いて話してみようぜ。俺はある事柄、フェチズムについて語らおうと思うんだぜ。いささか突拍子もなく、つまらないという保険の名の下に、公然にワイセツ物をさらけ出してしまうことに、ある種の不安と快楽っちゅうもんがあるのさ。法はおかしているのかもしれない、法はおかしてないのかもしれない。ヤバイやつっちゅう自覚はあるようでないみたいだぜ。表現の自由なんて言ってみりゃあ、取り締まるやつのさじ加減みたいなとこがあったりしないかな。俺はそう思うんだよ。なぁ。家の中に住まわった鳥の足音や、ついばむ音が激しさを増すたびに俺は不安で堪らなくなるんだ。こんな気持ちってわかるかい。わからなくたっていいさ。わかってもらうために生きることって死ぬほど虚しいぜ。空しいしさ、優しさという自己弁護的な愛情を君にあげるさ、と言って僕はグラビア雑誌に輝く黒髪の、唇のつるんとした、十代の後半の、十八才ってとこかな、そんな女の子のピュアな艶肌に思わず、目がくらんで、家から二駅先の駅前って程でもない広めのコンビニエンスストアで十代の水着グラビア、巻頭カラーのちょっとやらしい新作漫画のある漫画雑誌を購入することに決めたんだ、そして、そいつを裏面に向けて、自分の胸に隠して、後ろにいる調子のいい女の子の店員や、俺と同じ悲しみを抱いているかもしれない、後ろにいる、社会に降参したおじさんの目に、危なすぎる艶かしい布の面積の小さい、ピュアな笑顔を振り撒く女の子の可愛すぎるっていうそのあらわな、露骨すぎるフェチな姿が表紙の裏に隠された、そんな大人達が長いかもしれない会議の末に、刊行されたそんな、漫画雑誌を胸に抱いて、イカロス、愛の歌のメロディーを頭に浮かべて、レジをスキップして、俺はコンビニエンスストアを出ていった。白いポリ袋は透け透けで、電車でぶら下げてれば、普通にバレバレで、だけど仕方がないから、手ぶらで持つしかないし、最近の俺はもう、黒いバッグを肩にぶら下げる気持ちには、もうなれなくて、そんなときに俺のもしかすると、皆に嫌な目で見られてるかもしれない、状態を、実は泣きたい状態を、子供の頃に、あの頃に、好きだった、今や懐メロっていう、まだ懐メロって認めたくないって気持ちさえも、もはやもう別に…って感じのあの頃と同じはずなのに、違って聴こえるあの優しいメロディーだけがイヤホンの内側から僕を守ってくれる。戦ってねぇーのに。女の子は、この気持ちを分かってくれるだろうか。私はエロスの奴隷だ。間違いなく。思春期に見たあれが、強烈すぎた。あの体験さえなければ、俺はもう少し、まともだったかもしれない、なんて、言ってみたところで、過去は変えられないしさぁ、元気、元気、出していこぉぅよ。なんて、おっさんの口臭がしみる、権力的な暴力を振るうことを、どうやら無意識に断罪したい気分になっちまったみたいでさぁ、あ、やめとこ、あぁもう遅いや、と思ったのもつかの間、やりたいことといったら、あれしかなかったあの頃を思い出して、悲観的になってしまった。「人はそんなもんですよ」って、優しいのか、優しくないのか、判断させないような、ふんわりとした優しさが身に染みて、やけに反抗的になってたあの頃の自分の弱さなんか、かわいいもんだ、って自分で思っちゃうような、そんな憂鬱な昼下がり、やはりやることと言えば、それしかなくて、あれこれ悩んだところで、やりたいことと言えばそれしかなくて、好みの動画を探し続け、もはや、誰も犯罪と思っちゃいない犯罪を今日も繰り返しているのです。実況はそこまで。つい熱を出しすぎてしまいました、熱を放出しすぎてしまいました。もう少し、時間をかける気分だったのですけれど、自分には才能がないみたいです。
「諦めるな」
過去の幻影が襲いかかるとき、目が覚めました。もう、危険なものに手を出してしまったのでしょうか、断じて、私は怪しいものではないのです、と申し上げる不審者を横目に通りすぎていく、青少年の奏でるギター演奏を眺めては、許されたい、気持ちに、嗚呼どうして僕は、ギターではなく、ギターの練習をするのではなくて、ついそちらのネックを握ってしまうのだろう、嗚呼、幸せの道のりを辿るパスポートに近道は無かったのだ。私は深く後悔をしている、集めた違法動画、SNSで得た十代のグラビア写真の数々、それに、誰かの格言を有り難がる前に、勉強机の前に少しでも座って、きちんと、勉強机に散らばった不要物を処分して、きちんと、先生の言うことを聞いて、親や、めんどくさい大人の話をきちんと聞いてさえいれば、大学に行けた等と自信過剰なことを言うのでもなく、十分な日当を得られる仕事に就いて、スポーツを頑張って、少しでも私の良さを理解してくれる女の子と真剣に向き合ってさえいれば、こんな何の自慢にもならない、マスかき野郎になる必要は一切なかったのだ。私は、ベッドの上にいて、悲しみを抱いている。悲しみ、というのは自分自身だ。誰にも、わかってもらおうともせずに、誰にも、わからないような糞みたいな自惚れるだけの不幸を抱えて、一人死んでいくのだろう。ちらちら、まだ七時半だ。夜はまだまだ、これから。
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