名もなき空に、青い風が吹く
「うわっ、逃げられた!」
黄色いタモ網を水の中に突っ込んでいたわ
たしは、持ち上げた網の中になんにもいない
のを見て声を上げた。伯母さんたちがバーベ
キューの準備をしている間、わたしたちは網
を使って石の下に隠れている生き物を捕まえ
ていたのだ。大翔が浅瀬の石をそうっと持ち
上げる。下流側に立ってタモ網を構えている
わたしのところに、隠れていた何かがさーっ
と流れてくる。
流れてくる生き物はちょっとグロい見た目
をした水生昆虫だったり、可愛らしいサワガ
ニだったり、色いろだ。けれどそれらは水の
流れにのって、一瞬のうちに後ろへと流れて
行ってしまう。川遊び初体験のわたしたちは
要領を掴めず、いっくんが持っている網と同
じ色のバケツも空っぽだった。
「もーっ、どんくさいな。一匹も捕まらな
いじゃん」
生き物が隠れていそうな石を、片っ端から
ひっくり返していた大翔が文句を垂れる。
「しょうがないじゃん!あっという間なん
だもん。文句言うなら大翔が捕まえてよっ!」
振りかざした網から白い光がこぼれ落ちる。
その様子を少し離れたところから見ていた
いっくんは、まっ白な歯を見せた。
「逃げる方も必死だから仕方ないよ。まだ
時間はたっぷりあるんだから、気楽に楽しも」
手づかみで生き物を捕まえようとしている
いっくんが、言いながらじーっと川底を覗く。
空っぽのバケツが風を受けて虚しく揺れてい
ても、お構いなしだ。せっかく遊びに来たん
だからのんびり楽しもうよ、と、わたしに網
を譲ってくれたいっくんは二つしか違わない
のに大人だ。大翔よりずっとやさしくて落ち
着いている。
なのに、なんでわたしは大翔の方がいいん
だろう?
そんなことをちらっと思いながら、わたし
は今度こそと意気込んで言った。
「さあ、来いっ!」
空の色が溶け込んだ水の中で、大きく足を
開き網を構える。めんどくさそうに肩で息を
つくと大翔は川底に手を伸ばし、石をひっく
り返した。瞬間、いくつもの黒い影が冷たい
水と共に足に向かって流れてくる。それを目
がけて、ざばっと網を動かしたわたしの足の
間を大きめのサワガニが横歩きで通り抜けた。
黄色いタモ網を水の中に突っ込んでいたわ
たしは、持ち上げた網の中になんにもいない
のを見て声を上げた。伯母さんたちがバーベ
キューの準備をしている間、わたしたちは網
を使って石の下に隠れている生き物を捕まえ
ていたのだ。大翔が浅瀬の石をそうっと持ち
上げる。下流側に立ってタモ網を構えている
わたしのところに、隠れていた何かがさーっ
と流れてくる。
流れてくる生き物はちょっとグロい見た目
をした水生昆虫だったり、可愛らしいサワガ
ニだったり、色いろだ。けれどそれらは水の
流れにのって、一瞬のうちに後ろへと流れて
行ってしまう。川遊び初体験のわたしたちは
要領を掴めず、いっくんが持っている網と同
じ色のバケツも空っぽだった。
「もーっ、どんくさいな。一匹も捕まらな
いじゃん」
生き物が隠れていそうな石を、片っ端から
ひっくり返していた大翔が文句を垂れる。
「しょうがないじゃん!あっという間なん
だもん。文句言うなら大翔が捕まえてよっ!」
振りかざした網から白い光がこぼれ落ちる。
その様子を少し離れたところから見ていた
いっくんは、まっ白な歯を見せた。
「逃げる方も必死だから仕方ないよ。まだ
時間はたっぷりあるんだから、気楽に楽しも」
手づかみで生き物を捕まえようとしている
いっくんが、言いながらじーっと川底を覗く。
空っぽのバケツが風を受けて虚しく揺れてい
ても、お構いなしだ。せっかく遊びに来たん
だからのんびり楽しもうよ、と、わたしに網
を譲ってくれたいっくんは二つしか違わない
のに大人だ。大翔よりずっとやさしくて落ち
着いている。
なのに、なんでわたしは大翔の方がいいん
だろう?
そんなことをちらっと思いながら、わたし
は今度こそと意気込んで言った。
「さあ、来いっ!」
空の色が溶け込んだ水の中で、大きく足を
開き網を構える。めんどくさそうに肩で息を
つくと大翔は川底に手を伸ばし、石をひっく
り返した。瞬間、いくつもの黒い影が冷たい
水と共に足に向かって流れてくる。それを目
がけて、ざばっと網を動かしたわたしの足の
間を大きめのサワガニが横歩きで通り抜けた。