機械の幽霊は麻薬畑で踊るか?  ※一括転載
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 もう空には青い闇が流れて、思い出された星々がまどろみながら瞬きはじめていた。遠景を囲む山々の陰ったシルエットで、暮れなずむ稜線には、淡い残り火のような赤とオレンジの光が薄れていく。
 白い月の光が照らしだした、青白い骸骨のような巨人。それは細長い手足でノッポの、珍しいタイプだった。一口に表現すれば、大昔のおとぎ話の「がしゃ髑髏」や「スレンダーマン」に似ていたかもしれない。
 ただ、サイズが並外れていた。
 ロボットウォーカー(RW)としても、細身であることを別にして、単純な身長だけならば長身の部類だろう。およそ全長二十メートル。州軍閥に配備されたガバナー(「統治者」の名を持つRW)ですら十五メートル。二足歩行重機のコンセプトを絵に描いたような、大昔の絵本のクレーンのような、長い手足。そして立ち姿は人間によく似ていた。
 駆けつけた、ゲリラ村側のキャンサーが三台ほど、遠巻きに様子を窺っている。箱型のコックピットと駆動部に、メインの前と補助の後足、それからアームとサブアームがそれぞれ一対ずつで合計八本の手足。形が「カニ」にそっくりで、体高はおよそ十メートル。
 巨大な機械のカニ、不格好ながらコストや使い勝手が良いこともあって普及しているが、それでもこんな場末の盗賊ゲリラ拠点では貴重な戦力だ。
 
「あの高さで、真っ直ぐ立っている?」
 
 キャンサーの鉄板と分厚い防弾ガラスのコックピットで操縦者たちが、驚き交じりの無線通話を交わす。言葉の端々に畏怖の響きがあった。
 
「戦時中の技術ってのは、凄いのがあったんですね? よっぽどオートバランス・システムが優秀じゃなかったら、あんなふうに立ってられやしませんよ」
 
 野良ウォーカーだって、せいぜいガバナーの十五メートルやキャンサーの十メートルと同等くらいが関の山なのだから。
 それに。
 野良ウォーカーには幽霊だの、超自然の意志力だのが宿るという迷信がある。この時代、この世界の子供たちなら「悪い子は野良ウォーカーに」という脅し文句を聞いて育つ。ゲリラだって、多くは村の子供だった。
 だから、本能的に怯えがくる。普通のロボットウォーカーではなく、こんな「ちょっと普通でない代物」を前にしては。
 まばらな星空の下で。
 それでもゲリラたちはリアリストだった。
 
「あの細さ。撃っちまえば、そんなに強度があると思うか? あんなノッポ、ちょっと足を払ってやればひっくり返るさ」
 
 野良ウォーカーへの対処法は、荒野で出会った場合にはやり過ごすこと。多くの自立稼働しているウォーカーは過去の戦時中の行動パターンを人工知能が模倣し、あるいは戦闘・警戒プログラムで動いている。これは無人基地のコンピュータの製造ラインで追加製造されたものにも、コピーという形で移植されている。
 あえて「野良」「野性」などと呼ばれてはいるものの、野生化した無人基地や歩行ロボット、戦時中のコンピュータたちは勝手に「戦争」や領域内の「治安維持と哨戒」を続けている。まだ自動で稼働している無人基地では、無人の野良ウォーカーの新規製造まで行われているらしい。機械たちからすれば「今の人間の方こそ落伍者」で、現在はかつては使役していた人間たちの方が「機械たちが自由意志で行う戦争」に巻き込まれている格好だ。
 だから人間は、かつての原始哺乳類が恐竜に怯えて隠れ潜んだように、原始人たちが野獣を避けて生き延びたように生活している。
 もしも生活拠点などに接近してきた場合にでも、やり過ごすか、または撃退が第一となる。戦時中のロボットウォーカー(RW)は現在の一般的なものより戦闘能力で勝る場合が多い(州軍閥のガバナーですらせいぜい同等性能だが、戦時中に学習を積んだ人工知能があるだけに、しばしば強敵となる)。しかも強力な「自爆装置」を備えていたり、無人基地の電子ネットワークと連携して上空の衛星から強烈なレーザー攻撃してくることすらある(最悪は周囲一帯が焼け野原になる)。それゆえに「丸ごと捕獲」はかえってハイリスクというのが通念なのだった。
 やるなら撃退か、速攻での完全破壊しかないだろう。
 
「また「雷」とか「爆発」とか、御免だぜ?」
 
「コカ(麻薬)の畑だし、自爆されようがレーザーで燃やされてもしょうがないさ。こいつをぶっ壊して部品だけでも取れればいい」
 
 リスクが伴うとはいえ、野良ウォーカーを破壊して、高品質な資材や部品を手に入れることは、高度な戦略・軍事物資が不足しがちなゲリラにとってはやはり魅力的だろう。
 一呼吸置いて、三機のキャンサーの指揮官機体から号令が発せらせた。
 
「仕掛けるぞ! ファイヤー!」
 
 そしてキャンサーの頭上の火砲が轟音を続発させながら火を吹いた。さながら闇空に凶暴の咆哮を挙げるが如くに。
 
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