機械の幽霊は麻薬畑で踊るか? ※一括転載
6
ものの十分もしないうちに、ゲリラ村は混乱に陥っていた。謎のロボットウォーカー迎撃と撃退に向かったキャンサー三機が、返り討ちにあって破壊されたらしい。
「だから言ったでしょ? そんな簡単に勝てるわけがないって。特徴聞いたときに、思ったのよ。戦時中に最強クラスだった「カプリコン」だって。昔にデータで見たことあるの」
粗末な建物の陰に身を潜めながら、マリアはニンマリ笑った。
マリア・リーは出来るだけ顔を隠して、ライフルを背中に隠すようにしている。捕まっているはずの彼女が自由に歩き回っているのは不自然だからだ。
幸いに「医者」である白衣のサユキが一緒にいるから、少しくらい見られても、手当てや通りがかりの往診くらいに思われるだろう。いざとなればまたサユキが気を引いて不意打ちする手もあるだろう。
しかし、監禁場所からの脱走が気づかれるのは時間の問題だった。牢屋が空っぽになっていれば、どんな杜撰なアホでもおかしいと感じるはずだ。歩哨をコカの麻薬入りの酒でノックアウトして、わざとメモ書きで「バカ女は特別調教中」などと残しても、それでどこまで騙せるかは疑わしい。
急ぐ必要があった。
おそらくこれから混乱がピークになって警戒が緩んでいる間に。
「通信施設だよ。どうせカプリコンと戦うなら、そっちに強いウォーカーを使うしかないし、周囲警戒や警備も緩むだろうし。近くの州軍閥の部隊が今奇襲すれば」
強引に森林地帯を二人だけで脱出する選択肢もあったが、徒歩では厳しい。トラップもある上に歩哨もいるし、距離もある。たとえ小型ウォーカーを奪ったとしても、位置確認の発信器が付いているから、逃走中に気づかれてかえって追跡されるのが関の山。
ゲリラの残忍で冷酷な性質からして、脱走を試みて捕まれば、サユキですら無事では済まないだろう。
いつか、「もし逃げたら、鼻を削ぐのと、オッパイに刺青するのとどっちがいい? それとも足を切り落とそうか?」、睦言で尻を叩かれ輪姦されながら囁かれた言葉が甦ってきて、サユキは肌が粟立つようだった。あながち冗談ではないのは明らかで、無法者の男たちは笑っていたが、サユキ本人にとっては笑い事でない。それにマリア・リーに至っては、捕まれば確実に八つ裂き・なぶり殺しにされるだろう。「他の子と逃げたら、その子の死体を全部食べさせる」とも言っていた。
7
「みんな死んじゃえばいいのに」
一糸まとわない素肌に毛布をかけたパトリシア(パトラ)はベッドで膝を抱えて、親指の爪を噛んで毒づいた。さっきまで部屋に来ていた男たちは、彼女たちを脱がせたところで非常招集がかかって出ていった。
「ミレーユもそう思うでしょ?」
「うーん」
目をキラキラさせたパトリシアに、二十代半ばのミレーユは困った顔で、くすんだブロンドの髪を搔いた。
相部屋のミレーユは、ここに来てからの友人の一人で年上の姉貴分だった。都市近郊でパン焼きと配達をしていたが、不幸にも配送中に一家皆殺しにされてここに拉致されてきた。このゲリラ村ではパン焼き仕事に回され、案外に気の良い年配のパン焼き親方とは奇妙な愛人関係になっている。手伝いの少年兵たちからも色々と慕われているそうだ。
パトリシアは鳶色の髪の村娘。二十歳を出るかどうか、まだ少女と言っていい年頃だったが、土間の一点を見据えた眼差しは冷め切っていた。
およそ二カ月前に拉致されたのは、農作業の最中だった。この世界では半分野生とはいえ粗放な農業や畜産が行われている。それほどキッチリとした畑でこそないにせよ、穀物の種子や根菜類を大地にばら撒いて収穫し、場合によっては簡単な肥料を散布することもある。家畜も半野生動物の放し飼いで放任に近いものの、狩猟と放牧の混ぜ合わせに似た品種のものが放たれていた(大昔の漁業の稚魚放流のようなやり方だ)。
叔父と知人の少年と一緒に、小型ウォーカーでつつましい生活の糧の作業中に、村娘のパトリシアは攫われた。泣き叫んで「何でもします、私を連れてっていいから殺さないで」と頼んだのに、育て親の叔父は目の前で撃ち殺された。土下座したパトリシアの目の前に血と脳味噌が飛び散ったのだ。流石に少年は一緒に連れていっても殺しはしないかと思ったら、「年齢が大き過ぎてスカウト出来ない」。腹と胸を拳銃で撃たれ、血を吐いて瀕死の少年の見ている前で集団強姦されて処女喪失。
それ以来、メランコリーとヒステリーが重症になり、ミレーユのお陰でどうにか気が狂わずに済んでいる。男たちの間でも「あいつヤバいんじゃないか?」などと、無責任な陰口や揶揄されているようだ。
ものの十分もしないうちに、ゲリラ村は混乱に陥っていた。謎のロボットウォーカー迎撃と撃退に向かったキャンサー三機が、返り討ちにあって破壊されたらしい。
「だから言ったでしょ? そんな簡単に勝てるわけがないって。特徴聞いたときに、思ったのよ。戦時中に最強クラスだった「カプリコン」だって。昔にデータで見たことあるの」
粗末な建物の陰に身を潜めながら、マリアはニンマリ笑った。
マリア・リーは出来るだけ顔を隠して、ライフルを背中に隠すようにしている。捕まっているはずの彼女が自由に歩き回っているのは不自然だからだ。
幸いに「医者」である白衣のサユキが一緒にいるから、少しくらい見られても、手当てや通りがかりの往診くらいに思われるだろう。いざとなればまたサユキが気を引いて不意打ちする手もあるだろう。
しかし、監禁場所からの脱走が気づかれるのは時間の問題だった。牢屋が空っぽになっていれば、どんな杜撰なアホでもおかしいと感じるはずだ。歩哨をコカの麻薬入りの酒でノックアウトして、わざとメモ書きで「バカ女は特別調教中」などと残しても、それでどこまで騙せるかは疑わしい。
急ぐ必要があった。
おそらくこれから混乱がピークになって警戒が緩んでいる間に。
「通信施設だよ。どうせカプリコンと戦うなら、そっちに強いウォーカーを使うしかないし、周囲警戒や警備も緩むだろうし。近くの州軍閥の部隊が今奇襲すれば」
強引に森林地帯を二人だけで脱出する選択肢もあったが、徒歩では厳しい。トラップもある上に歩哨もいるし、距離もある。たとえ小型ウォーカーを奪ったとしても、位置確認の発信器が付いているから、逃走中に気づかれてかえって追跡されるのが関の山。
ゲリラの残忍で冷酷な性質からして、脱走を試みて捕まれば、サユキですら無事では済まないだろう。
いつか、「もし逃げたら、鼻を削ぐのと、オッパイに刺青するのとどっちがいい? それとも足を切り落とそうか?」、睦言で尻を叩かれ輪姦されながら囁かれた言葉が甦ってきて、サユキは肌が粟立つようだった。あながち冗談ではないのは明らかで、無法者の男たちは笑っていたが、サユキ本人にとっては笑い事でない。それにマリア・リーに至っては、捕まれば確実に八つ裂き・なぶり殺しにされるだろう。「他の子と逃げたら、その子の死体を全部食べさせる」とも言っていた。
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「みんな死んじゃえばいいのに」
一糸まとわない素肌に毛布をかけたパトリシア(パトラ)はベッドで膝を抱えて、親指の爪を噛んで毒づいた。さっきまで部屋に来ていた男たちは、彼女たちを脱がせたところで非常招集がかかって出ていった。
「ミレーユもそう思うでしょ?」
「うーん」
目をキラキラさせたパトリシアに、二十代半ばのミレーユは困った顔で、くすんだブロンドの髪を搔いた。
相部屋のミレーユは、ここに来てからの友人の一人で年上の姉貴分だった。都市近郊でパン焼きと配達をしていたが、不幸にも配送中に一家皆殺しにされてここに拉致されてきた。このゲリラ村ではパン焼き仕事に回され、案外に気の良い年配のパン焼き親方とは奇妙な愛人関係になっている。手伝いの少年兵たちからも色々と慕われているそうだ。
パトリシアは鳶色の髪の村娘。二十歳を出るかどうか、まだ少女と言っていい年頃だったが、土間の一点を見据えた眼差しは冷め切っていた。
およそ二カ月前に拉致されたのは、農作業の最中だった。この世界では半分野生とはいえ粗放な農業や畜産が行われている。それほどキッチリとした畑でこそないにせよ、穀物の種子や根菜類を大地にばら撒いて収穫し、場合によっては簡単な肥料を散布することもある。家畜も半野生動物の放し飼いで放任に近いものの、狩猟と放牧の混ぜ合わせに似た品種のものが放たれていた(大昔の漁業の稚魚放流のようなやり方だ)。
叔父と知人の少年と一緒に、小型ウォーカーでつつましい生活の糧の作業中に、村娘のパトリシアは攫われた。泣き叫んで「何でもします、私を連れてっていいから殺さないで」と頼んだのに、育て親の叔父は目の前で撃ち殺された。土下座したパトリシアの目の前に血と脳味噌が飛び散ったのだ。流石に少年は一緒に連れていっても殺しはしないかと思ったら、「年齢が大き過ぎてスカウト出来ない」。腹と胸を拳銃で撃たれ、血を吐いて瀕死の少年の見ている前で集団強姦されて処女喪失。
それ以来、メランコリーとヒステリーが重症になり、ミレーユのお陰でどうにか気が狂わずに済んでいる。男たちの間でも「あいつヤバいんじゃないか?」などと、無責任な陰口や揶揄されているようだ。