孤独な先輩と空しか撮れない私の話。
撮影旅行から1ヶ月ほど経過した頃、私達は文化祭の準備を進めていた。
と言っても、写真部での出店は今までの写真の掲示のみ。
「もう、スナップ大量展示にしようぜ」
先輩が選び切れないと苦悶の声を上げて、嘆いている。
私としても、1000枚以上ある写真の中から5枚を選ぶのは結構キツイ。
今のところ、候補に残っているのは、植物園で取った雫の写真と雨の日にバスの中で取った灰色の雲、撮影旅行での滝と星空の写真と…。
現時点で全然選び切れないのに、また私は写真を撮ってしまう。
青空を埋め尽くすように浮かぶ鱗雲の写真。
「凪ちゃんは選べそう?」
先輩が自分の写真を選ぶのに飽きたのか、いつの間にか後ろに立っていた。
「いや、まだちょっと」
「お。これ綺麗」
私がスクロールしていくカメラを覗き込んで多彩な反応を見せる。

「何とか決まった」
文化祭の1週間前、やっと掲示する5枚が決定した。
最終的に先輩がいい反応をした写真が多く残っているような気がする。
でも、それは多分気のせいだろう。
先輩はどの写真を選んだのか、それは少し楽しみだ。

授業が終わったら、即、写真部の方に行っていたせいで、クラスの出し物について全く知らず、先輩に揶揄われた時に初めて知った。
「1年3組、脱出ゲームなんでしょ?順調?」
クラスの出し物について全く考えていなくて、一瞬フリーズした。
「そうなんですか」
他人事のように通り過ぎたからか、行き手を阻まれて「聞いてないの?結構、張り切ってるって話だよ」となぜか楽しそうに笑われた。
まあ、ほぼいないような人に係を任せたりはしないだろう、と安直に考えていたら、全然そんなことはなく、前々日に通りすがりで、「文化祭の受付よろしくね」と言われた。
行かなかった自分にも非はあるけれど、前々日に言われるのか。
空は高潔で、青い。
受付の面倒臭さが空を味わういつもの安らぎの上に深く立ち込めた。

翌々日、嫌々、クラスの出し物の受付を担っていた。
校舎を揺らすブラスバンドの音と、揚げ物の油が混じった特有の匂い。
「制限時間は10分です。ヒントは一箇所に一つだけで、見つけたアイテムはすぐに戻し、持ち歩かないで下さい」
説明が書かれた画用紙を見せながら、軽く説明をしていく。
仲間同士で会話していて、ほとんど聞いていない。
やる意味、あるのだろうか。
ま、文句言われるのは面倒臭いし、仕方ないか。
「じゃ、どうぞ」
揶揄い合う2人を迷路内に促して、一息つく。
意外と賑わっているな。
空いた時にでも少し写真部の方を見に行こうと思ってたけど、いく余裕は無さそう。
「凪ちゃん、おはよ。俺ら3人ね」
僅かに空いていた窓の隙間からくっきりと浮かぶ筋雲を眺めていたら、聞き慣れた声で我に返った。
「先輩。なんで来たんですか?」
部長さんともう一人の3年生を後ろに引き連れて、先輩は頬を緩ませる。
「いいじゃん。いいじゃん。脱出ゲーム、人気みたいだし、面白そうじゃん」
「凪ちゃんの受付。世那が楽しみにしてたよ」
部長さんが堂々と入口に入っていく先輩の横で告げ口していく。
少し羨ましい。

結局、見学時間内に抜けることはできず、写真部の展示の方に着いたのは終了10分後だった。
「すみません」
人波を掻き分けながら、やっとのことでパソコン室に着く。
「受付、頑張ってたからね。いいよ。いいよ」
着くと、先輩達が片付け作業を始めていた。
雲は一点に向かって鋭い飛行機雲を伸ばしていた。
私の雨の滴の写真の隣に、先輩の写真はまだかろうじて残っていた。
「なんか、この2つの写真、雰囲気似てるよね」
部長さんが周りの画鋲を慎重に外しながら、息のように呟く。
「そうですかね?」
先輩の写真は、日光東照宮の前で優しい微笑みを浮かべる外国人観光客の姿。
日光に照らされて白銀に輝く東照宮の屋根とそれを覆い囲む古木。
その影で、ゆらりと柔らかい安らかな笑顔。
著しい共通点がある訳ではないけれど、なんとなく雰囲気が似ているような気もした。
少し、心が緩く解かれた。

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