オタクの好きは違うから

エピローグ

「みーなと」

不意に、俺は梨仁に呼び止められた。
俺は校舎の裏庭の穴場の自販機でジュースを買っていたところだった。
文化祭ももう終わろうとしている。

「久しぶりだね、梨仁」

「いやー、マジで久しぶり!って感じ!!」

俺はクスッと笑った。
梨仁は部活の県大会に加えて、文化祭実行員になっていたから予定がつめつめだったんだ。
そのせいでこの2ヶ月くらい全く喋れていなかった。
だから、航希と付き合い始めたってことも。
おそらく雰囲気的に気がついていると思うけれど、梨仁はなにも言ってこなかった。
だからこそ、こうやってゆっくり話す時間ができてしまうのは少し怖かった。
でも、しっかり言わなきゃ。
あやふやで関係を繋げても、なにも意味がないと思うから。
俺は梨仁を真っ直ぐに見つめた。

「梨仁、俺、航希と付き合うことになった」

「………そっか」

梨仁は小さくそう呟いた。
そして、少し明るい声で。

「風坂先生がいなくなったあたりからなんかあるんだろうなーとは思ってたけど。そっか、付き合ってたのか。おめでとう、じゃあ俺もういくよ」

「っ…待って!」

俺は思わず梨仁の腕をにぎった。
梨仁は驚いたように、勢いよく振り返った。

「な、なに?」

「えっと…」

伝えなきゃ、想いを。
梨仁にはたくさん救われてきたから。

「梨仁、俺のこと好きになってくれてありがとう。本当に嬉しかった。ありのままの俺を受け入れてくれたし、俺に無理強いもしなかったし。なにより俺を助けてくれた。ありがとう。でも、俺、梨仁の気持ちに応えられない。ごめん…!!」

俺は頭を下げて謝った。
梨仁はと言うと、ふっと笑って俺の顔をあげさせた。

「なんで湊士が謝るんだよ。言ったろ?そうやってあたって砕けるのも恋だって。俺は、湊士のこと、好きになれてよかったって思ってるよ。…ごめん、わがまま言うけどさ」

「うん」

「また友達として、いや親友として隣にいさせてほしい」

俺はクスッと笑った。
ああ、よかった。
梨仁と友達に、親友になれて。

「もちろん」

「あ、ありがと…!」

その時、放送がなった。

『文化祭一般公開は残り10分となります。ご来校いただき誠にありがとうございました。生徒の皆さんは後夜祭が行われるため、大ホールにお集まりください』

俺は航希と待ち合わせをしていることを思い出した。
航希は最終時間のシフトだから、航希のクラスで待ち合わせ。
俺は梨仁に行った。

「これからもよろしくね!じゃあ俺、行ってくる!」

「おう!また後でなー」

***

そうして湊士が去った後、梨仁の後ろからひょっこりと姿を表した氷翠。
梨仁は存在に気がつくなり、しかめっつらをした。

「おい、聞いてただろ」

「ふふ、ごめんごめん。いやー青春だね。高校生って感じ!」

「いやなにおっさんみたいなこと言ってんだよ。きも…」

そういいながらも、梨仁の顔はにやけていた。
その時、氷翠がポツリと呟いた。

「いいな、俺も青春したい。……梨仁と」

「え?」

「俺ね、梨仁のこと好きだよ。湊士なんかより好きにさせてみせるから、覚悟しててよね。絶対堕としてみせるから」

梨仁は去っていく氷翠の姿をぽかんと見つめた。
それから、驚きで声をあげた。

「は、はぁぁ!?待て待て待て、氷翠が俺のこと…好き?………いや、嘘だろ」

けれどあの瞳は、嘘は言っていなかった。
その後梨仁は氷翠に振り回されるのだった。

***

「航希ー!」

「湊士」

俺は航希に飛びつく勢いで走った。
それから、ふたりで誰もいない教室から夕陽を見つめる。
もう、文化祭も終わりか。

「なんかあっという間だったね、文化祭。去年より楽しめた気がする」

そう言ってクスッと笑った。
航希も同じように笑ってくれた。
ああ、好きだなって改めて思った。
本当にいろんなことがあった。
でも、こうやってふたりで、幸せな日々を送っている。
航希のことがどうしようもなく好きで、日々好きって気持ちが増加している。
俺は航希と唇を重ねた。
突然だったからか、航希は耳たぶを赤くした。

「ちょ、それは反則」

「へへっ。別に航希に攻めを譲るとは言ってないし?」

俺は悪い顔で笑った。
好きな子には尽くしたいし、攻めたい欲はひとりの男として持ち合わせている。

「はー?俺だって譲らねぇし」

そう言って今度は航希がキスをしてきた。
だんだん深くなって、息が荒くなっていく。
しばらく経って離れた航希は満足そうに笑っていた。

「かわいー。まだ慣れないもんね?」

「なっ…」

今日も俺は航希に翻弄される。
その熱に、溺れさせられる。
まだまだ航希から攻めポジは盗めていない。
でも、こうやって恋人になって改めて考える。
たしかにこれはオタクの好きとは違う。
あの頃よりもっと翻弄されてるし、もっと幸せなんだ。
航希と恋愛ができてよかった。
恋の形って人それぞれで、答えなんかない。
俺たちの恋は闇の中で始まって、闇の中で続いているとも言えると思う。

「ぐちゃぐちゃにしていいんでしょ?」

「……うん、して…!」

航希は誰かと話しただけで嫉妬して、時に俺を閉じ込めようとする。
俺はとにかく航希のことしか考えられず、ドロドロとした感情が抜けていかない。
それでも幸せだから。
それでいい。


——俺たちはこの執着という枠の中で、永遠に恋をしていく。
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