夏祭りに火照る頬
「あっづい!」
真夏の炎天下。会社近くの広場で、浴衣を身にまとって大勢押しかけてきている子供達を捌く。
今日は会社主催の「こども縁日」の日。
地域密着型のお菓子会社である我が社は、毎年この時期になると、子供達を集めて夏祭りを開く。
そのスタッフとして、職員は全員浴衣を見にまとい、屋台で働くのだ。
「文句言ってないで働け、高橋」
「主任だって汗だくじゃないですか。よくそんな表情だけは涼しい顔していられますね」
黒い浴衣を身にまとったのは、我が部署のアイドル、宮坂主任だった。他の女子社員たちは浴衣姿のイケメンである主任にキャーキャー言って使い物にならないので、女子力皆無で有名な私が主任の右腕として動いている。
「浴衣、案外涼しいだろ。風がよく通り抜けるし」
「そうは言っても気温考えてくださいよ」
年々日本の夏は暑くなっていく。それに耐えかねているのは私だけではないはず。
今日は当然、土曜日で。そんな本来だったら休日のはずの日にお日様の下に引っ張り出されるのは、遺憾の意を表明したいところ。
「お前はほんと、干からびてるよな。他の女子社員は浴衣だ何だってはしゃいでたのに」
「そりゃ、主任が浴衣になるからはしゃいでたんでしょぉ? 私には関係ないですし」
「もう少し俺の美貌を讃えろ、高橋」
傲慢なナルシスト発言をする主任に白い目を向ける。
仕事はデキる、若くして主任の地位につき、見た目もイケメン。そりゃあ主任はおモテになるでしょうよ。
そんな人にときめいたって、可能性なんかあるわけないんだから、私には関係のない話だ。
取引先のおじさんにセクハラされてひっそり悔し泣きしていた時、颯爽と助けてくれて以来、主任のことをこっそり目で追ってしまっているなんて、そんなのはいますぐ解消したい悪癖。
叶わない恋に身をやつしているほど、アラサー女子は暇ではないのだ。
「ま、俺は結構はしゃいでるけどな、お前の浴衣姿見て」
「え?」
「ほら、水ヨーヨーの補充するぞ。手伝え」
「あ、はい」
何か聞こえた気がするけど、え、気のせい?
戸惑いながら、一緒に水ヨーヨーを作っていると、ぼんやりしながら作業していたせいだろうか、ヨーヨーが破裂して浴衣がびしゃ濡れになってしまった。
「ちょ、おまえ、何やってんだよ」
「いやあ、破裂しちゃいました」
「裏で乾かしてこい!」
「暑いし、大丈夫ですよ、このくらい。すぐに乾きます。それより作業進めちゃいましょ」
人手は足りていないし、水ヨーヨー釣りのプールにはすでに残りの数が少なくなっている。早く補充しなければならない。
「いやいやいや。ダメだって。お前、そんな色っぽい姿、他のやつに見せるなよ!」
「何言ってるんですか」
「あああもう! 俺が乾かしてやるからこっちこい!」
腕を引っ張られ、裏手に連れて行かれる。パイプ椅子に腰掛けさせられると、浴衣の帯に挟まれた扇子で、主任は私を扇ぎ始めた。
「そんなんで乾かないですよ」
「いいから。お前、その格好で人前に出るなよ」
「さっきから何なんですか」
「女の浴衣ってのはとにかく目に毒なんだよ。上層部のおっさんどもに見せてたまるか」
主任、実は浴衣フェチ? 何やらよっぽど浴衣姿が男の目に止まるのが嫌らしい。
「じゃあ、他のもっと可愛い女の子たちのお世話でもしたらどうですか」
「お前が一番似合ってんだから仕方ないだろ」
和顔の薄顔だもんね、私。
うん、勘違いなんてしない。勘違いして痛い目を見るのはごめんだ。
だから、やたらと早鐘を打つ自分の心臓に、私は早く鎮まれ、とひたすら願っていた。
真夏の炎天下。会社近くの広場で、浴衣を身にまとって大勢押しかけてきている子供達を捌く。
今日は会社主催の「こども縁日」の日。
地域密着型のお菓子会社である我が社は、毎年この時期になると、子供達を集めて夏祭りを開く。
そのスタッフとして、職員は全員浴衣を見にまとい、屋台で働くのだ。
「文句言ってないで働け、高橋」
「主任だって汗だくじゃないですか。よくそんな表情だけは涼しい顔していられますね」
黒い浴衣を身にまとったのは、我が部署のアイドル、宮坂主任だった。他の女子社員たちは浴衣姿のイケメンである主任にキャーキャー言って使い物にならないので、女子力皆無で有名な私が主任の右腕として動いている。
「浴衣、案外涼しいだろ。風がよく通り抜けるし」
「そうは言っても気温考えてくださいよ」
年々日本の夏は暑くなっていく。それに耐えかねているのは私だけではないはず。
今日は当然、土曜日で。そんな本来だったら休日のはずの日にお日様の下に引っ張り出されるのは、遺憾の意を表明したいところ。
「お前はほんと、干からびてるよな。他の女子社員は浴衣だ何だってはしゃいでたのに」
「そりゃ、主任が浴衣になるからはしゃいでたんでしょぉ? 私には関係ないですし」
「もう少し俺の美貌を讃えろ、高橋」
傲慢なナルシスト発言をする主任に白い目を向ける。
仕事はデキる、若くして主任の地位につき、見た目もイケメン。そりゃあ主任はおモテになるでしょうよ。
そんな人にときめいたって、可能性なんかあるわけないんだから、私には関係のない話だ。
取引先のおじさんにセクハラされてひっそり悔し泣きしていた時、颯爽と助けてくれて以来、主任のことをこっそり目で追ってしまっているなんて、そんなのはいますぐ解消したい悪癖。
叶わない恋に身をやつしているほど、アラサー女子は暇ではないのだ。
「ま、俺は結構はしゃいでるけどな、お前の浴衣姿見て」
「え?」
「ほら、水ヨーヨーの補充するぞ。手伝え」
「あ、はい」
何か聞こえた気がするけど、え、気のせい?
戸惑いながら、一緒に水ヨーヨーを作っていると、ぼんやりしながら作業していたせいだろうか、ヨーヨーが破裂して浴衣がびしゃ濡れになってしまった。
「ちょ、おまえ、何やってんだよ」
「いやあ、破裂しちゃいました」
「裏で乾かしてこい!」
「暑いし、大丈夫ですよ、このくらい。すぐに乾きます。それより作業進めちゃいましょ」
人手は足りていないし、水ヨーヨー釣りのプールにはすでに残りの数が少なくなっている。早く補充しなければならない。
「いやいやいや。ダメだって。お前、そんな色っぽい姿、他のやつに見せるなよ!」
「何言ってるんですか」
「あああもう! 俺が乾かしてやるからこっちこい!」
腕を引っ張られ、裏手に連れて行かれる。パイプ椅子に腰掛けさせられると、浴衣の帯に挟まれた扇子で、主任は私を扇ぎ始めた。
「そんなんで乾かないですよ」
「いいから。お前、その格好で人前に出るなよ」
「さっきから何なんですか」
「女の浴衣ってのはとにかく目に毒なんだよ。上層部のおっさんどもに見せてたまるか」
主任、実は浴衣フェチ? 何やらよっぽど浴衣姿が男の目に止まるのが嫌らしい。
「じゃあ、他のもっと可愛い女の子たちのお世話でもしたらどうですか」
「お前が一番似合ってんだから仕方ないだろ」
和顔の薄顔だもんね、私。
うん、勘違いなんてしない。勘違いして痛い目を見るのはごめんだ。
だから、やたらと早鐘を打つ自分の心臓に、私は早く鎮まれ、とひたすら願っていた。
