悪女の代行を演じたら氷の御曹司に永久就職⁉〜お見合い破談に大失敗!私は彼に丸め込まれ溺愛されてます~


「本当に困ったやつだよね?志遠は」

いえ流されてやっちゃう私も困ったやつです。
そんなことは言えませんが。

「ですね…でも金銭が発生してるんで我慢です」

ずっと連絡を取り合っていた秘書さんは西脇さんと言うらしく彼の自宅マンション近くに住んでいて長年の友人らしい。
仕事以外は彼と気楽な付き合いみたい。

「それ訴えても良いんじゃないかな?」

「いい加減、俺を抜きにして話すの止めてくれないか?」

少し不貞腐れ気味にソファのタブレットから目を離しキッチンで話す私達を恨めしそうに見つめてくる。

「お待ちください。ご主人様」

あの台風の夜、アルター・エゴを通じて婚約者代行の指名となぜか強制同居をスタートして3週間経とうとしている。
前の令嬢に関してのお見合いは断ってくれたから私は報酬を貰って実家の借金も無事に支払い完了し何故か冷酷社長が後ろ盾するかのように実家の工場に仕事を回してくれてるらしい。
まあ優しさと言うより家族と言う人質を取られたって感じで私は彼から逃げ出せそうにない。

逃げられないというか今は逃げ出そうと思えない。

(…彼も苦労してるのよね)

“婚約者代行なんて”と思い西脇さんに相談すると彼の複雑で大変な理由を教えてくれた。

――親族間経営の権力争い。

ドラマの中だけの世界だと思っていたけど現実に起こってる。
これから起こる様々な可能性を少なくする為に彼は奮闘してるらしい。

「現・逢坂当主は志遠が可愛いし、後継者として育てたようなものだからね」

先日、フロントに訪れた西脇さんは話してくれた。
そして「志遠が何でああなのかひねくれた愛情表現が分かるかもね」と不思議なことを言われた。

彼が私に愛情?
そんなのあるわけない!
昔も今もやはり身分差は気になるところで逢坂グループなら政治家の後ろ盾とか国外の要人との結びつきとか娘を婚約者に!と裏で画策されてると思う。

「確かに最近疲れてそうだよね」

絶対的トップである彼の祖父の引退で次期トップの交代の時期が近づくにつれ親族たちが一斉に甘い汁を吸おうと動き出している。

「遅いな。コーヒー1杯にどれだけ時間をかけている」

彼は視線すら上げずタブレットでホテルの売上報告をチェックしながらいかにも意地悪そうに薄い唇の端を上げた。

「今やってますーーー!」

権力闘争が始まれば平穏な時間は2度と送れなくなるかもしれない。
彼の声に「嫌味を言うだけ今はマシかな」と呟くと隣の西脇さんは「ごめんね」と苦笑いを浮かべた。
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