銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

覚悟の目覚め、重なる視線と朝の誓い

【エリーゼ視点】
翌朝、窓から差し込むうっすらとした朝光で、私は目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた白い天井ではなく、古びた木製の天井。そして、私を包み込む圧倒的な温かさだった。
「あ……」
気がつくと、私はレオンの逞しい胸の中にすっぽりと収まっていた。
彼の長い腕が私の背中に回され、まるで宝物を壊さないように、優しく、けれど確実にホールドされている。すぐ近くから、彼の規則正しい、深い心音がドクンドクンと響いていた。
(レオン、起きてない……よね?)
そっと見上げると、レオンは綺麗な銀色の睫毛を伏せて、穏やかに眠っていた。いつもは警戒して立っている耳が、今は少しだけへにゃりと寝ているのが、たまらなく可愛い。
前世の私は、朝起きるたびに「今日もまだ生きている」という恐怖に近い安堵を感じていた。
でも、今は違う。
レオンの腕の中で目覚める朝は、こんなにも温かくて、優しくて、生きていることが心の底から嬉しいと思える。
「……ありがとう、レオン」
私は彼の胸に、気付かれないくらい小さな声で囁いた。
実家の兄がすぐ近くまで来ている。原作のシナリオが、まだ私を悪役令嬢の枠に引きずり戻そうとしているのかもしれない。
けれど、私はもう絶対に逃げ出さないし、この手を離さない。
ゆっくりでいい。この街で、この人の隣で、私は私の物語を、一歩ずつ確実に紡いでいくんだ。
私が彼の服の裾をそっと握りしめた瞬間、レオンの銀色の耳がピクリと跳ね上がり、その琥珀色の瞳がゆっくりと開いた。私たちの視線が、至近距離で静かに絡み合う。新しい一日の、そして私たちの新しい幕が、静かに上がろうとしていた。
「……エリーゼ」
至近距離で開かれたレオンの琥珀色の瞳が、驚いたように微かに揺れた。
朝の光に透ける彼の瞳は、まるで上質な宝石のようで、見つめられているだけで私の心臓はまたしても不規則なステップを刻み始める。
「お、おはよう、レオン。……よく眠れた?」
「ああ。お前が隣にいてくれたからな」
レオンは少し掠れた声で微笑むと、私の背に回されていた腕を、名残惜しそうに、けれど私を気遣うようにゆっくりと離した。腕が離れた瞬間、急に朝の空気が冷たく感じられて、私はほんの少しだけ寂しさを覚えてしまう。
(私、本当にレオンのことが……)
いや、まだそれを口にするのは早い。私はまだ、自分の足でこの世界を歩き始めたばかりのひよっこだ。レオンの優しさに寄り添いながら、もっとお互いを知って、もっと対等な関係になってから――。
「エリーゼ、顔が赤いぞ。やはりどこか体調が悪いのか?」
レオンが心配そうに、ゴツゴツとした大きな手を私の額に伸ばしてきた。
「な、なんでもないわ! ほら、今日もやることがたくさんあるでしょう? 早く準備をしましょう!」
私は慌ててベッドから抜け出し、パタパタと顔を手で仰いだ。
背後で、レオンの銀色の耳が不思議そうにパタパタと動く気配がして、私はさらに恥ずかしくなってしまうのだった。
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