凍てついた令嬢は、異国の太陽に抱かれる
第七十話:至宝の目覚め、そして愛しき我が家(エルサ・ゼオン視点)
【エルサ視点】計算式の終着点、世界一甘やかな目覚め
「……ん……っ」
心地よい温もりと、どこか懐かしいハチミツとレモンの甘い香りに包まれて、私はゆっくりと意識を浮上させました。
窓から差し込む柔らかな朝の光が、私の視界を琥珀色に染めていきます。大人の頭脳が現在の状況を瞬時に演算し、数日前の、あの命をかけた『出産』という大タスクの完了を思い出させました。
(私は……無事に、産み落とすことができたのですね)
身体の疲労は、ガルディニアが誇る最高峰の神聖魔導医学と、皆様が秒単位で注いでくれた過保護なケアのおかげで、驚くほど綺麗に回復していました。
そして何より、私のすぐ隣から、言葉にできないほど愛おしい、ドクドクとした力強い心音が聞こえてきます。
「ーー目が覚めたか、エルサ」
視線を上げると、そこには、少しだけ目の下に隈(くま)を作った、けれど世界で一番優しい眼差しをした最愛の旦那様ーーゼオン様が私を見下ろしていました。
「ゼオン、様……」
「動くな。まだ休んでいろ」
私の声が紡がれるより早く、ゼオン様の大きな手が私の頬を包み込み、額に、目元に、そして唇に、何度も何度も熱い口づけを落としていきます。その剥き出しの真心と、一瞬たりとも私を離したくないという執着の熱量に、私の胸の奥は一瞬で甘酸っぱい幸福感で満たされました。
「お前が眠っている間、本当に頭がおかしくなりそうだった。……よく頑張ったな、エルサ。俺の、世界で唯一の愛しい妃だ」
「ふふ、ゼオン様がついていてくださったから、私の計算式に『失敗』の二文字はありませんわ。……それで、私たちの、小さな『バグ(子供たち)』は……?」
私がそう問いかけた瞬間、ゼオン様が少しだけ悔しそうに、けれど最高に愛おしそうに目を細めて、ベッドの傍らに設えられた特製の大きな揺りかごを指差しました。
【エルサ視点】素の笑顔が紡ぐ、永遠の方程式
そこには、並んでスースーと小さな寝息を立てている、二つの新しい命がありました。
うっすらと生えた深い紺色の髪。生まれたばかりだというのに、すでに驚くほど整った端正な顔立ち。
それは、私の大好きなゼオン様に驚くほどそっくりな、双子の兄妹(きょうだい)でした。
私がそっと手を伸ばすと、その気配を察したかのように、二人が同時に小さな琥珀色の瞳を開けました。ゼオン様そっくりの顔に、私と同じ琥珀色の瞳。その不条理なまでの愛らしさに、私の大人の頭脳は完全にメルトダウンを起こしました。
「あ……っ、ゼオン様、見てください。この子たち、私を見て……笑って、」
兄の方が私の指を小さな手でぎゅっと握りしめ、妹の方が私の髪の毛を愛おしそうに引っ張ります。
前世の二十五年、今世の十数年、誰からも一人の人間として愛されず、ただの便利な道具(マシーン)として搾取されてきた私。そんな私が、今、世界で一番私を溺愛してくれる最愛の旦那様と、その血を引く愛おしい子供たちに囲まれている。
「……ああ、本当に、なんて不条理で、完璧な幸福なのでしょう」
私は大人の仮面を一枚も残さずに剥ぎ取り、涙をボロボロと零しながら、心からの、最高の【素の笑顔】を旦那様と子供たちに向けました。
「対価も、価値も、もう必要ありません。ゼオン様、そして私を『お母様』にしてくれた可愛い天使たち。……私は、あなたたちの愛の檻の中で、生涯をかけて、世界一幸せに生きていくことをここに誓います」
【ゼオン視点】檻の完成、そして終わらない溺愛の永久機関
「ーーああ、お前がそう笑うなら、俺の命なんていくらでもくれてやる」
エルサの口から紡がれた、最高の笑顔と永遠の誓い。
そして、俺にそっくりな双子を愛おしそうに抱きしめる我が妃の姿に、俺の胸の奥の独占欲と加虐心、そして底なしの愛おしさが同時に爆発した。
エルサを縛り付けていた過去の冬の亡霊は、もうこの世界の一片すら残っていない。
あいつの人生の計算式は、俺という『絶対的なバグ』と、新しく生まれた二つの小さなバグたちによって、完全に幸福の数式へと書き換えられたのだ。
「エルサ。お前とこのガキどもを囲む『溺愛の檻』は、これで永久に完成だ。一生、俺の腕の中から逃げられると思うなよ」
「ええ。喜んで、一生あなたに閉じ込められてあげますわ、私の最愛の旦那様」
恥ずかしそうに耳まで真っ赤にしながらも、自ら俺の首に腕を回して口づけを強請(ねだ)ってくる我が妃。
そのうぶで、淫らなほどに愛らしい応えに、俺は再び彼女をベッドへと押し倒し、その唇を深く、深く貪り尽くした。
愛を知らなかった異邦の至宝は、今、最愛の夫と愛しき子供たちと共に、世界一安全で、世界一甘やかな【絶対的溺愛の楽園】のなかで、永遠の幸福を貪り続けるのだった。
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