アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない
【第71話】
交差点での大号泣の仲直りから、一夜明けた火曜日の朝。
私は自室の鏡の前で、何度も深呼吸を繰り返していた。
「よし。神田律、いつも通り、総務部監査官として完璧な業務をこなすだけ……」
そう自分に言い聞かせ、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる。
だけど、脳内のあのやかましいプロ漫才師は、昨日先輩に抱きしめられた瞬間にどこかへ失踪してしまったようで、いくら呼び出しても戻ってこない。代わりに、心臓の奥がずっと『きゅん』と甘く疼き続けていた。
「おはよう、律さん」
始業前のオフィス。営業部のフロアへ向かう途中の廊下で、待ち伏せていた氷室先輩に声をかけられた。
その瞬間、私の頭の中の全システムが音を立てて真っ白にシャットダウンした。
「……っ、あ、お、おはよう、ございます……先輩」
いつもなら「総務部への事前申請のない突撃は――」とか「チャラ男先輩」とか、冷徹な標準語や脳内ツッコミが淀みなく湧き出てくるはずだった。
なのに、今の私は、先輩の眩しい笑顔を見ただけで、顔がカッと火山のように熱くなって、言葉が上手く出てこない。
「律さん? 顔赤いよ? まだ熱ある?」
「ち、違いますっ……! その、べ、別に、赤くなって、ないです……」
私は自分の両頬を両手で包むように隠し、俯いた。
先輩の顔を真っ直ぐ見られない。昨日、「あんたっていう沼に溺れた」なんて、あんなに熱い目で告白されたせいで、先輩がただの『素敵な大好きな男の人』にしか見えなくなってしまったのだ。
「……。ねぇ、律さん」
「はいっ!?」
「……何その反応、めちゃくちゃ可愛いんだけど。今まで被ってたアンドロイドの仮面、どこ行っちゃったの?」
先輩が嬉しそうに目を細めて、私の顔を覗き込んできた。
仮面なんて、先輩の手で跡形もなく粉砕されてしまった。今の私は、生まれて初めての恋にただ右往左往している、ただの無防備な神田律だった。
交差点での大号泣の仲直りから、一夜明けた火曜日の朝。
私は自室の鏡の前で、何度も深呼吸を繰り返していた。
「よし。神田律、いつも通り、総務部監査官として完璧な業務をこなすだけ……」
そう自分に言い聞かせ、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる。
だけど、脳内のあのやかましいプロ漫才師は、昨日先輩に抱きしめられた瞬間にどこかへ失踪してしまったようで、いくら呼び出しても戻ってこない。代わりに、心臓の奥がずっと『きゅん』と甘く疼き続けていた。
「おはよう、律さん」
始業前のオフィス。営業部のフロアへ向かう途中の廊下で、待ち伏せていた氷室先輩に声をかけられた。
その瞬間、私の頭の中の全システムが音を立てて真っ白にシャットダウンした。
「……っ、あ、お、おはよう、ございます……先輩」
いつもなら「総務部への事前申請のない突撃は――」とか「チャラ男先輩」とか、冷徹な標準語や脳内ツッコミが淀みなく湧き出てくるはずだった。
なのに、今の私は、先輩の眩しい笑顔を見ただけで、顔がカッと火山のように熱くなって、言葉が上手く出てこない。
「律さん? 顔赤いよ? まだ熱ある?」
「ち、違いますっ……! その、べ、別に、赤くなって、ないです……」
私は自分の両頬を両手で包むように隠し、俯いた。
先輩の顔を真っ直ぐ見られない。昨日、「あんたっていう沼に溺れた」なんて、あんなに熱い目で告白されたせいで、先輩がただの『素敵な大好きな男の人』にしか見えなくなってしまったのだ。
「……。ねぇ、律さん」
「はいっ!?」
「……何その反応、めちゃくちゃ可愛いんだけど。今まで被ってたアンドロイドの仮面、どこ行っちゃったの?」
先輩が嬉しそうに目を細めて、私の顔を覗き込んできた。
仮面なんて、先輩の手で跡形もなく粉砕されてしまった。今の私は、生まれて初めての恋にただ右往左往している、ただの無防備な神田律だった。