恋を知らない私への処方箋――エリート上司と癒やし系同僚がくれる、ほんものの愛

プロローグ

 私は恋をしたことがない。

 二十六歳の女性がそんなことを口にしたら驚かれるだろうか。
 まあ実際に驚かれることもあるから、やっぱり少数派なんだと思う。でも、本当なんだからしょうがない。

 そもそも恋というものが、どういうものなのかもわかっていない。

 男性のことを「いいな」と思うことはある。外見が好みだとか話してみて感じがよさそうだとか、その程度のこと。
 でもそこから「好き」という気持ちに、どうしても発展しない。

 いったい好きって何なんだろう。どこからが本当の「好き」なんだろう。
 恋ってなに? どういう気持ちを、恋って呼ぶんだろう。

 そんなことをぼんやり考えていた。

 もう大人なのに変だと思うよね。学生の頃、恋をしなかったのかって。

 ――そう。思い返せば、私はずっと臆病だった。
 男性というより、人に対して。

 もともとは、明るく元気な性格だったらしい。「らしい」というのは、私自身にはそんな記憶がないからだ。

 アルバムを開くと、確かに、そこには明るそうな女の子が写っている。
 にこっと笑っていて、今の私よりも、ずっと無邪気そうで。「これが私かあ」と写真を眺めながら、どこか他人事みたいに思う。

 でも、記憶の中の私は、いつも大人しかった。

 物心ついた頃から、ひとりでいるのが好きだった。というより誰かと関わることを、どこかで怖がっていた気がする。
 どう関わればいいのかわからなかった。

 友達を作る方法もわからなくて、いつも少し離れた場所から眺めているだけ。
 たまに向こうから声をかけてくる子もいたけど、必ずしも「いい子」ではなかった。

 自分のことしか考えていない、わがままな子が多かったと思う。
 私を利用しようとしているのが見え見えで、都合のいいときだけ近づいてきて、用が済めば離れていく。

 そんなことが続けば、人を信じられなくなってしまう。

 それから私は、少しずつ自分の価値を見失っていった。
 自分には価値がない、いらない存在なんだって、いつの間にか思い込むようになった。

 思えば小さい頃から私は自分に自信がなかった。

 何をするにも人より劣っているような気がして。実際、褒められた記憶もあまりない。
 ……いや、褒められていたのかな。はっきり思い出せない。

 けなされた記憶だけは、妙に残っているっていうのに。
 それでどうやって、自信を持てというのだろう。

 学校では、何をするにも順位がつけられた。「おまえは、これだけ劣っているんだぞ」と突きつけられているみたいで、息が詰まった。

 友達だと思っていた子からは、いつも二番手の扱い。
 周りの人たちからも、どこか雑に扱われる。
 誰も、私のことなんて見ていない。そう感じる場面ばかりだった。

 「おまえは大切な存在じゃない」
 そんなふうに、少しずつ刷り込まれていくようで。

 それは、大人になるまでずっと続いた。

 まあ……私って運もなかったんだと思う。
 世の中には、そんな人ばかりじゃないことを、大人になった今ならわかる。
 それにしても、どうしてあんな人たちばかり寄ってきたんだろう。

 でも、その理由さえ、ネガティブな私はこう考えてしまう。
 私が悪いんだ。私がそういう人間だから、類は友を呼ぶんだって。

 ……なんてね。こうやってネガティブな人間って、どんどんネガティブになっていくものなのかもしれない。

 そんなふうに大人しくて自信のない二十六歳の、
 望月(もちづき)花音(かのん)という人間ができあがってしまったというわけ。

 恋をするなんて、夢のまた夢。
 普通に友達を作ることすらできない私が、彼氏なんて作れるわけがないでしょ?

 ずっと、そう思っていた。

 そんな私が、まさか素敵な男性から溺愛される日が来るなんて。

 まさに、青天の霹靂(へきれき)とは、このことだ。
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