溺れるほど、きみが好き~国民的アイドルと初恋の幼馴染に奪い合われて、困ってます~

第39話 心配する弟、悩む姉

 これまでのいきさつを話すと、太陽は黙り込み、しばらく考え込んだ。

「ふーん。ま、わかってたけどね」

 にこりと笑って軽口をたたく。その顔はどこか自慢げだった。

 私はぽかんと口を開けて弟を見つめた。

「知ってたの?」

 驚きのあまり、声が擦れる。
 まさか、この子……守兄の想いに気づいてた?

 太陽は肩を竦め、どや顔で言った。

「うん、ずっと前からね。幼い頃から、なんとなくわかってたよ」

 さらりと言ってのける弟に、勢いよく詰め寄る。

「じゃあ、なんで教えてくれなかったのよ!?」

 太陽は気まずそうに眉を寄せ、視線を外しながらぽつりとこぼした。

「だって、そういうのは本人の口から言うもんでしょ?」

 正論だった。言い返す言葉もない。

「うっ、確かに。そうね」

 ジト目で弟をにらむ。

 太陽は昔から妙に大人びている。考え方がどこか達観していて、勘が鋭い。
 今回のこともさすが。

 でも、やっぱり悔しい。
 守兄の気持ち。私はまるで気づかなかったのに、太陽にはわかっていたなんて。

 むくれてにらみつけていると、太陽の表情が変わった。
 険しさを帯び、ぐっと真剣な顔つきになる。

「僕はさ……姉ちゃんが幸せなら、それでいいと思ってた。
 だから、あきらさんと付き合うのも反対しなかった。姉ちゃんの幸せを邪魔したくなかったし、付き合い始めのころは本当に幸せそうだったから」

 そこまで言うと、太陽は息をつき、少し俯いてぽつりと続ける。

「でも、だんだん不安になってきたんだ。最近の姉ちゃん、よく辛そうにしてるから」

 胸がじんと熱くなる。
 そんなふうに思ってくれてたんだ。

 やっぱりこの子、年齢のわりにずっと大人だ。感心しちゃう。

 そして、顔を上げた太陽の瞳は真剣そのものだった。

「姉ちゃん、守兄のこと、考えてみたら?」

 その言葉に胸がざわめいた。
 目を丸くして見つめると、弟は優しい笑みを返す。

「あきらさんと付き合うようになってから、姉ちゃん、辛そうな顔を見せるようになったよ。
 ぼーっとしてたり、ため息ついたり。
 守兄なら、きっとそんなことないって思うんだ。僕も守兄のことは大好きだし。姉ちゃんがお付き合いする相手としては、賛成だな」

 な、なんだか……太陽が父親みたい。娘を心配する親そのものだ。

 そんなふうに思われ、見られていたなんて、不覚。
 姉として情けない。

 でも、そうか。
 私はそんなに辛そうにしていたんだ。
 自分では気づかなくても、太陽の目にはそう映っていたんだ。

「ま、ゆっくり考えてみたら?」

 そう言うと、太陽は私の頭をぐしゃっと撫でてきた。

「な、なにすんのよ!」

「へへっ」

 いたずらっ子のように笑うと、太陽はそのまま自分の部屋へ戻っていった。

 もう、なんなのよ。弟のくせに私を子ども扱いするんだから。
 まあ、私が頼りないから悪いんだけど。

 ぷうっと頬を膨らませたところで、ふと考え込む。

 守兄、あきら。
 二人の顔が脳裏をよぎる。

 私、いったいどうしたらいいの?

 はあとため息をつきながら、なんとなくテレビをつける。

 すると、画面いっぱいにあきらの顔が映った。
 ドキッと心臓が跳ねる。

 な、なんてダイレクトなの。

 高鳴る鼓動を押さえながら、私はテレビにかじりついた。
 煌びやかなステージで歌い、踊る彼の姿を、息を詰めるように目に焼きつける。

 こうした姿を、これまで何度も見てきた。そのたび、誇らしさと同時に、複雑な思いが湧いてくる。

 あきらには、たくさんのファンがいる。
 彼を大好きで、毎日想い続け、純粋に応援している子たち。

 彼女なんていない。そう信じているに違いない。

 でも実際には、私がいる。
 その子たちの気持ちを裏切っている事実に、胸が痛み、申し訳なさでいっぱいになる。

 もし私のことが世間に知られたら。
 そんなことを、何度も考えた。

 あきらにとって、私は足かせなのかもしれない。そう思ったことも一度や二度ではない。

 それに、普通の恋人みたいに、自由に会ったり、デートしたり。
 そんな当たり前のことさえ、私たちには難しかった。

 わかっているつもりだし、そのことについては納得している。
 それでも「一緒にいたい」と望んだのは、私だし。

 ……だけど。
 挫けそうになるときもある。
 あきらと別れた方がいいのかもしれない。そう思ったことがない、と言えば嘘になる。

 それでも、やっぱり。

 私はテレビに映るあきらをじっと見つめた。

 好き。

 彼の姿を見ると、彼のことを考えると、愛しい気持ちが込み上げてくる。
 傍にいたい。隣にいて支えたい。
 心から、そう願ってしまう。

 うん。やっぱり私、あきらが好き。

 その確信を胸に、彼の姿を目で追った。
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