偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
ふとエコバッグの中のマヨネーズが目に入り、小さく呟いた。
とりあえず今は、彩子のために美味しい食事を用意しなければ。

「あれ?」

やがて家に着き玄関に入ってすぐ、見慣れない黒いスニーカーに気が付いた。
サイズはかなり大きめで、以前、彩子が足のサイズが大きくてパンプスひとつ買うのもデザインが限定されるとぼやいていたのを思い出した。

「彩子さん、来てるんですか?」

大家の彩子はこの家の鍵を持っている。
咲良の留守中に家に入ることはなかったが、今日は珍しく中で待っているようだ。

「ごめんなさい。ちょっと買い物に出ていて。すぐに用意しますね」

テレビがついたリビングに顔を出して声をかけながら、キッチンに急いだ。

「そうだ、頼まれていたお金を銀行でおろしてきましたよ」

忘れないうちに返しておこうと、バッグから彩子から預かっていたキャッシュカードと通帳、そして現金が入っている銀行名が印刷された封筒を取り出した。

「彩子さん?」

なんの返事もないのが気になり視線を向けると、ソファの背から彩子のトレードマークともいえる黒髪のショートカットが見えている。
するとちょうどバッグから取り出したスマホが音を立てた。
画面にはここ最近やり取りを続けている工務店の名前が表示されている。
今日は休日のはずだが、なにかトラブルでもあったのだろうか。

「どうしよう」

慌ててスマホの音量を下げて彩子の後ろ姿を見ると、眠っているようだ。
――だったら大丈夫なはず。

「もしもし。芝田です」

彩子を気にかけながら、急いで電話に出た。

《咲良ちゃん? 突然悪いね。今日都合がついたから今から現場に入って最後の仕上げをやっておくよ》

スマホから、気のいい声が聞こえてくる。工務店で働く職人の茂だ。

《明日か明後日にはクリーニングの会社が入るから、その後確認に来てくれるか?》

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