片想いが終わる頃、恋が始まる。
呪いのような祝福
次の日の朝。
俺はいつもより早くに、翡翠を屋敷の裏庭に呼び出した。
「……紺? どうしたの、こんな朝早くに」
朝の光の中で、俺の姿を見つけて少し歩調を速める翡翠。
……その顔を見た瞬間、俺の心臓が一瞬、冷たく跳ねた。
眩しいくらいの、笑顔だった。
まるで、”幸せでたまらない”と、その全身で語っているかのようにキラキラと輝いている彼女の表情。
それを見た瞬間。
胸の奥が、どうしようもなく締め付けられて、息がうまく吸えなくなった。
(ああ、本当に……アイツの隣に行っちゃったんだな)
俺の入る隙なんて、最初からどこにもなかった───それを突きつけられたみたいで、泣きそうになる。
────でも、それと同時に。
心のどこかで、すとんと重荷が取れたようにホッとしている自分もいた。
翡翠は無事に自分の恋を叶えて、大好きな人と一緒になれた。
それは、つまり。
俺が世界で一番、誰よりも幸せになってほしかった女の子が、これ以上ない幸せを掴んだということ。
「ううん、なんでもないよ。ちょっとね、翡翠に一つだけ、俺のわがままを聞いて欲しくて」
俺はいつものように、困ったような、優しい笑顔を無理やり顔に貼り付けた。
これから伝える"嘘"と"最後の本音"を、翡翠に気づかれないように隠しながら。
「紺の……わがまま?」
不思議そうに小首を傾げる翡翠との距離を、一歩だけ詰める。
……これが、俺が男として彼女に近づける、最初で最後の距離。